子供の頃から、大人たちが「白ばら」に入っていく姿を見ていた
酒田市内の民宿に生まれた佐藤さんが、初めて白ばらを訪れたのは寒さ厳しい2013年2月だった。
「この建物に大人たちが入っていく姿を子供の頃から見ていました。中でイケナイことをしているんだろうと思って、ずっと近づかないようにしてた。客としてはじめて来たのは、知り合いの新聞記者に連れられて。ネオンが灯る古びた建物の外観は、はっきり言ってヤクザというかアンダーグラウンドの危険な雰囲気を感じたね。子供の頃と印象が変わらなかった(笑)」
おそるおそるドアを開く。そこには濃密な昭和の香りが漂っていた。椰子の木や天井に張り巡らされた電飾。一番奥で輝くショーステージ。ビロード生地のソファに鏡張りの壁面。
「まるで南国のような華やかさと、バブル時代の懐かしさ。平成の時代にまだこんな場所が残っていたのかと衝撃を受けた。すっかりワクワクしちゃって、なんで今まで来なかったんだろうってすぐに後悔したよ」
「実はこの店は閉まるんだ』と耳打ちされて
佐藤さんがキャバレーの洗礼を受けたこの夜、奇しくも北海道・札幌のグランドキャバレー「クラブハイツ」が閉店している。「日本最北端のグランドキャバレー」の肩書が白ばらのものになった夜だった。
「気分良くなっていたところで記者に『記事にするからまだ内緒にしてほしいんだけど、実はこの店は閉まるんだ』と耳打ちされてね。初めて来た新参者の客なんだけど、なんだか悔しくなってね。どうにかこの店を残せないかって、そんなことを考えてる自分がいましたね」
店の売り上げに貢献しようと、翌日からことあるごとに友人知人に白ばらのことを吹聴してまわった。少しでも興味を持った相手がいれば、白ばらへ飲みに誘う。一見から名物客になるまで時間はかからなかったが、肝心の客足はなかなか増えなかった。佐藤さんの健気な奮闘むなしく、白ばらは15年12月末に最終営業日を迎える。