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飲食店として2年ぶりに復活した白ばら

「最後の日は地元のミュージシャンやパフォーマーを呼んでイベントを開いて盛り上げた。昔ながらのファンも多く集まって閉店を惜しむ中、支配人が『まだ白ばらの根っこは生きています。いつかこの根っこから新しい芽が生えてくることを期待しています』と最後に挨拶してくれた。店を譲ってもらって復活させるチャンスがあるんじゃないかと期待したんだけど、公安委員会にせっつかれて翌々月に支配人が風営法の許可を返納してしまった」

 キャバレーとしての「資格」は失ったが、諦めきれない佐藤さんは友人らと協力し、昭和の空間を生かしたレンタルスペースとして白ばらを活用する道を模索する。赤字でもイベントを打ち続けて店の浸透を図り、消防署から設置要請を受けた自動火災報知器などの消防施設設置費用350万円はクラウドファンディングでまかなった。施設の補修による休業をはさみながら、あらためて保健所から許可を取り、飲食店としての営業再開にこぎつけたのは17年12月。2年ぶりの白ばら復活だった。

古びた外観はアンダーグラウンドな雰囲気を醸し出す ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎

『昭和の空間』を存続させることが地元のためになると信じて

「儲けを出そうとは考えていない。最低限営業を続けられるだけの売り上げを出して、業態は変わっても白ばらを残すことができればそれでいいかなと考えてきました。東京の大学に進学して40歳で地元に帰ってきたから、よそ者扱いされて嫌味を言われることもあったけど、全国でも数少ない『昭和の空間』を存続させることが地元のためになると信じていた」

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「昭和の大衆文化遺産を残すことが地域のためになると信じている」と話す佐藤仁さん ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎

 白ばらの存続をひたむきに願っていた佐藤さんは、昨年7月に脳梗塞で倒れる。日常生活に支障がない程度までは回復したが、いまだ左手足に痺れが残る。体調不安のなか、電力料金の値上げと円安による物価高騰がさらに追い討ちをかけた。佐藤さんは今年いっぱいでの閉店を決断する。

「これまで本当に多くの人に協力してもらっていたから断腸の思いだが、続ければ続けるだけ血を垂れ流すみたいな状況になってしまった。営業は止めますが、建物がこれ以上老朽化しないように資金が続く限りは自腹を切って維持費用を出していくつもりです。この昭和遺産を引き継ぎたいという若者が出てくることを願って、いったん冬眠という感じかな」