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《消える昭和遺産》日本最北端のキャバレーがついに閉店“店主が語る無念”と最南端のキャバレーを支える97歳"大ママ”の意地

《消える昭和遺産》日本最北端のキャバレーがついに閉店“店主が語る無念”と最南端のキャバレーを支える97歳"大ママ”の意地

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「日本最南端のキャバレー」熊本県八代市の「ニュー白馬」

 日本最北端のバラの花が静かに散ろうとしている一方で、熊本県八代市にある老舗「ニュー白馬」は、日本最南端のキャバレーとして肩で息をしながら営業を続けている。

バンドステージにダンスフロアー、ボックス席を完備したニュー白馬は、数少ない伝統的なキャバレーだ ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎
ニュー白馬ではダンスショーも開催されている。盛り上がった客がチップを渡していた ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎

 ニュー白馬は白ばらと同じ1958年に創業。デビュー前の八代亜紀がステージに立ったことで知られ、1964年に吹き抜け2階席を備えた現在の建物に移転した。ディスコやキャバクラの台頭でキャバレー界が衰退する中でも、人件費が廉価な外国人女性をホステスとして雇うなど対策を練って営業を続けてきた。創業から半世紀以上が経つ。しかし、苦境は年を経るごとに重くなる。

ステージで歌う客の背後では生演奏が披露されている ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎

「主な客はブームを知るご高齢の方々。若者にはなかなか足を運んでもらえていません。はっきり言って赤字営業。続けているのは意地です」と語るのは2代目社長の池田義信さん(74)。叔父の創業者、故・西田勝己さんに誘われて、大学生時代から黒服を務め、現在も店に立ち客を迎え入れる。

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「キャバレーはもはや大衆文化遺産。どうにか残していきたい」と話す池田義信さん ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎

「周りの同世代を見ればみんな年金暮らし。正直に言えば自分もゆっくりと暮らしたいですよ」

 そう愚痴をこぼしながらも池田さんが店を続けているのには理由がある。創業者の妻で「大ママ」と呼ばれる西田フサエさん(97)の存在だ。

「最近は体調がすぐれず機会も減りましたが、90を超えても店に顔を出し接客してくれている。亡くなった創業者はとにかく歌うことが大好きで、音響や照明、ステージ設計にこだわった。お客さんが楽しく歌って踊れる場所づくりを大事にして、大ママはずっとそれを支えてきた。大ママがご存命のうちは何がなんでも続けます」

半世紀以上、天井に吊るされた豪華なシャンデリア。常連客の一人は「このシャンデリアは店の歴史を全部見てきた」と話す ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎
客がステージで歌う際には、隣でホステスが手拍子で盛り上げる ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎

キャバレーは紳士淑女の社交の場、明日の活力や夢を与えてくれる

 ネオンで彩られたステージでマイクを握りしめる老人と、その横で手拍子するホステス。ギターと鍵盤の奏者が後ろに控えて音楽を奏でる。気分の乗った老夫婦はボックス席を飛び出し、手を取り合ってフロアーで踊っていた。その光景に目を奪われていると、池田さんが囁いた。

「若い人には斬新でしょ。キャバレーは紳士淑女の社交の場であり、明日の活力や夢を与えてくれる場であると信じています」

営業日には派手なネオンが点灯する ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎
ニュー白馬近くの商店街。コロナの影響もあってかシャッターを閉めている店が並んでいた ⓒ文藝春秋 撮影・上田康太郎
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