一連の少年事件の記録廃棄は、「国民共有の知的資源」の喪失にほかならない。当初の裁判所の対応は、国民への説明責任を放棄するものともいえる。
裁判所での保存期間を超えた判決原本の行方
同法は主に行政文書の管理や保存について定めているが、行政機関以外の国の機関(当然裁判所も含まれる)の「歴史資料として重要な公文書その他の文書」についても「適切な保存のために必要な措置を講ずる」としており、必要な場合は国立公文書館へ移管することとしている。
実際、裁判所での保管期間を過ぎた民事判決原本は、国立公文書館に移管され、永久保存されている。それが実現するには、次のようないきさつがあった。
従来、明治初年以降、永久保存されてきた民事判決原本について、最高裁が1992年に保存期間を50年間に変更し、期限を過ぎたものは94年から順次廃棄すると発表した。
これが実施されれば、明治・大正・昭和にかけての日本の法・裁判制度や社会の変遷状況を物語る大切な資料が失われる。全国の大学の研究者らが声を挙げ、永久保存を訴えた。焼却処分の対象となる判決原本3万6千冊余りは、国立10大学が手分けして引き取る「緊急避難」を行った。
2009年になって、最高裁長官と内閣総理大臣の申し合わせにより、裁判所での保存期間を超えた判決原本は、国立公文書館に移管され、永久保存されることになった。「緊急避難」していた記録も、すでに移管が完了している。
なぜ重要な裁判記録の廃棄が明らかになったのか
ただ、判決や決定など裁判所の結論が書かれた文書だけでは、事件の全貌が分かるとは限らない。だからこそ、重要な事件については全記録を残せる特別保存の規程がある。
ところが、この規程が守られず、重要な裁判記録の廃棄が問題になるのは、実は今回が初めてではない。そして、いずれも今回同様、メディアの調査報道によって事実が明らかになった。
2019年2月、多くの著名民事訴訟の記録が破棄されていることを、朝日新聞が報じた。生活保護の基準が憲法第25条にある健康で文化的な最低生活を保障しているかどうかが争われ、生活保護制度の改善につながった「朝日訴訟」や、米国人弁護士のローレンス・レペタさんが法廷でメモを取る権利を求めて提訴し、傍聴人のメモの自由が認められるきっかけとなった「レペタ訴訟」のほか、在外投票を制限した公選法の規程が最高裁で違憲と判断された訴訟の記録などが捨てられていた。