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「羆の頭を狙うのはタブーではないんですか?」

「羆の頭を狙うのはタブーではないんですか?」と中川に尋ねると、「これは昨年の12月に獲った420キロのヤツなんだけど」と言いながら、棚の上から何かを取り出した。

 見事な羆の頭骨である。420キロは、国内最大級のレベルの羆ということになるが、私が息を呑んだのは、その弾痕が正確に脳天を射貫いていたからである。私のリアクションを見て、中川は我が意を得たりといった風にニヤリと笑って、「この技はオレしかできねえと思っている」と言った。

見事にヒグマの脳天を貫く中川の射撃

 後日、この頭骨の写真を山崎に送ると、山崎もまた笑いながら「あの人(中川)は、例外。普通はあんなところ(脳天)狙っても絶対撃てない」と脱帽した。山崎はこうも付け加えた。

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「当然、羆の頭骨を貫けるように十分な銃弾の重さを確保しながら、弾速も極力速くなるように工夫しているはずです。いずれにしろ、揺れる船の上からトドの頭を狙える彼にしかできない芸当だと思います」

 中川のトド撃ち時代からの相棒である赤石は、これまで少なくとも120頭以上の羆を仕留めているが、あるハンター仲間は「獲った数なら中川さんの方が多いんでない?」と証言した。中川本人はこう語る。

「今、70だから『羆撃ち』は38年間やっている。羅臼における羆の有害捕獲が年間平均で15頭ぐらいで、そのうち10頭はだいたいオレが獲ってる。(10頭×38年だとすると380頭以上?)そうそうそう」

国内最大級の420キロのヒグマ

 それだけ羆を仕留めることができたのは「犬のおかげです」と中川は言う。

「羆の場合は、バイタルゾーンっていって脳、頸椎から脊髄神経を撃たないといけない。ただ常にそこを狙えればいいけど、実際には状況によってはそうもいかない場合もある。肺とか心臓を撃っても死ぬことは死ぬんだけど、着弾してから100メートルも200メートルも走るんだわ。笹の中、それだけ走られたら、普通は回収できない。だから逃げた羆を追跡できる犬が必要になるんです」

 その中川にとって史上最高の相棒といえるのが紀州犬の「熊五郎(熊吠号・通称クマ)」だった。