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「ライフルっていうのはね、狙う獲物によって弾を使い分ける。シカ用、クマ用、トド用とみんな違うわけだ。で、原則として弾頭を軽くすれば弾速は速くなるけど、着弾エネルギー(獲物に与えるダメージ)は弱くなる。逆に弾頭を重くすれば弾速は遅くなるけど、着弾エネルギーは強くなるわけだ」

 つまり、弾の速さと獲物に与えるダメージの大きさはトレードオフの関係にある。

「だとすれば、トドを一撃で殺さずに、仮死状態で動けなくする程度にダメージをコントロールするには、弾頭を軽くして弾速を極限まで高めればいい。体内奥深くまでダメージを与えるのではなく、頭部で表面爆発させるようなイメージ。それで実際に弾速の速い弾を作って撃ってみたんだ。そうしたら撃たれたトドは脳震盪みたいな状態になって痙攣しながら、しばらく海上に浮くようになった。そこへ船を寄せて、銛でトドメを刺す。この方法を考え付いてから、獲れる量は年間100頭だったのが倍になったね」

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 もっともそれも長くは続かなかった。2005年に知床が世界自然遺産に登録されると、トドの年間捕獲数は15頭までと捕獲規制が設けられるようになったのである。

「たった15頭じゃ、油代や船の維持費を捻出することもできない。船出せば赤字だから、トド撃ちは廃業せざるを得なかったね」

 一方で、散弾銃を所持して10年が経ち、ライフルを所持できるようになった32歳頃から中川は羆を撃つようになるのだが、トド撃ちの経験は「非常に役に立った」という。

「トド撃つときは、水中に潜って逃げたトドが息継ぎのために、スッと顔を出したところをスポーンと撃つわけです。で、実は羆もヤブの中を逃げていくときは、時々立ち上がってヤブの上に顔を出して、こっちを探すわけさ。ヤブの中をちょちょと逃げて、スッと顔を出す――このリズムはトドが水面に顔を出すのと似ている。だからオレは羆がヤブの上に顔を出した瞬間を狙ってスポーンと撃つんだ」

「この技はオレしかできねえ」

 ここでちょっと疑問が生じた。中川の言葉を疑うつもりはないが、以前インタビューした“北の鉄砲師”こと山崎は、「羆の頭を撃つべきではない」と語っていたのを思い出したからだ。その理由としてクマの頭部の骨は犬の頭ほどの大きさくらいしかなく、その形状も鼻先から頭頂に向かって傾斜が少なく被弾しにくい。撃つとすれば側面、耳の後ろしかないが、それ以外の場所は固い頭骨に跳ね返される可能性が高く、下手に羆の頭を撃ったハンターは致命傷を与えられないまま反撃を受けて、「確実に殺されてしまうと思います」と山崎は言った。