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羽生の「年度89局・68勝」記録を生んだ谷川の存在

 その年間88局を破ったのが2000年度の羽生である。年度89局、68勝は現在の藤井聡太竜王をもってしても破るのが困難ではないかとされる記録だ。そして、この数字には同年に羽生と激戦を繰り広げた谷川の存在を抜きにはできない。

 00年度の谷川は78局、51勝だが、普通ならば年度最多対局と最多勝利であってもまったくおかしくない数字である。この年度の両者の詳細を見てみよう。

©文藝春秋

 この年度の谷川は順位戦A級で名人挑戦権を獲得し、全日本プロでも決勝五番勝負へ進出しているので、決して不調だったとは言えない。そもそも不調の棋士が年間51勝もできるはずがない。

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 王将挑戦を決めた時点のインタビューで「同じ相手にこれだけ顔を合わせるとさすがにうんざりするのでは」と問われた谷川は、「そんなことはないですね。羽生さんもオールラウンドプレイヤーですし、私もできるだけいろんな将棋を指したいなあと思っていますので。あまり同じ戦型ばかりで同じ相手とやっているとそういう気持ちになるのかもしれませんが、毎局作戦もかなり違ってきていますからね」と答えている。

 そして同じく年間23局を数えた05年度の羽生―佐藤戦は、以下のような内容だった。

©文藝春秋

 白玲戦第7局の控室では、里見-西山の数字と比較する形で羽生-佐藤戦も話題に上がった。里見と西山を称える一方で、自身の数字に関しては「そんなこともありましたね」と、さらりと流したのが佐藤らしかった。

第2期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦第7局。里見(写真右)が最終局を制して、奪取に成功した  ©相崎修司

少し形を変えて、少しずつ進歩

 改めて、里見―西山戦について考えてみる。当然ながら両者の戦いはまだまだ続くだろう。それでも今年度内に新たな里見―西山戦が行われる可能性は、棋戦進行の状況からすると確率としては相当に低い。

 では来年度の両者が23局を超えるかと言うと、まず年度初めの女王戦では当たらないことが確定している。他の7棋戦すべてで番勝負が実現してフルセットになると33局を数えるが、さすがにこれは仮定が過ぎる。

「タイトル戦に絡めているから里見さんと指すことができる。そのことは喜びたいです」とは、白玲戦で激闘を重ねていた時分に西山が語った言葉だ。

 そして両者の戦いは相振り飛車になる確率が極めて高い。例えば羽生-佐藤戦の23局が矢倉、角換わり、居飛車振り飛車の対抗形など、戦型のバラエティに富んでいたのと比較して対照的である。

 そのことについて里見は「毎回同じ形になりやすいのですが、そこにちょっとした工夫が加わって、また少し形を変えてという対局が続いているので、少しずつ進歩していることを感じるのが自分にとって充実感がありました。西山さんは私とは棋風が真逆で、あまり読んでいない手を指されることもあって、すごく新鮮な気持ちになります」と語っていた。

 里見-西山の熱戦をもっと多く見たいと思うし、両者に割って入る女流棋士が登場することにも期待したいと思う。

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