ゲーム業界を舞台に、個性的で才能あふれるクリエイターが、大手IT企業の理不尽な妨害に怯むことなく闘う青春ドラマが『アトムの童(こ)』だ。
天才的なゲーム・クリエイターなのに、熱血漢で呆れるほどのお人好し、安積那由他(あづみなゆた/山﨑賢人)が主人公だ。金儲けや世俗的な成功、名声に興味はなく、頭の中は誰もが驚く新ゲーム開発のことだけ。
その那由他と学生時代にジョン・ドゥというチームを組み、尖鋭的なゲームを次つぎ世に出したのが菅生隼人(すごうはやと/松下洸平)。カルト的な人気を博したが、彼らは素姓を隠し、メディアに露出せず“ゲーム業界のバンクシー”と呼ばれた。
直情型の那由他を演じる山﨑賢人と、シニカルな隼人役の松下洸平のコンビがいい味だしてるんだよ。そして一時は絶縁状態だった二人の仲をとりもつのが富永海(うみ/岸井ゆきの)だ。
ドラマのタイトルになっている、小さな町工場だが伝説的なメーカー、アトム玩具の社長の娘だ。
三人とも、いい奴でね。海の父親役の風間杜夫や社員の塚地武雅、でんでんも揃って善人。でも、これじゃドラマは動かない。
冷酷、非情。金と権力のためなら手段は選ばない。そんなIT大手「SAGAS」の社長、興津晃彦をオダギリジョーが演じる。
見た目はクールで、物腰も柔らかい。なのに犯罪スレスレの行為も平気でやる卑劣漢が興津だ。
怖いよ、オダジョー。犬の着ぐるみ姿で「エロいオイニー(匂い)がする」と言ったり、朝ドラで「トランペットが吹けへんのや」と呟いた面影はない。
固い友情とゲーム愛で繋がった山﨑と松下の前に立ちはだかる最凶の冷血漢をオダジョーが演じたから、『アトムの童』にスリルと恐怖、速度が生まれた。
当初は香川照之の役だったんだよね。それが香川君の性加害問題で、急遽オダジョーに。でもね、結果オーライだよ。香川君の暑苦しい恫喝や土下座って、はっきりいって飽きた。
老舗の玩具会社を騙し、潰すのは、圧が強い香川君より、一見スマートなオダジョーの方が断然似合う。『エルピス』の鈴木亮平も然り。見ため善人が悪人を演じると目が離せない。
第七話の予告編。オダジョーが懇意にしていた経産省事務次官(西田尚美)から捨てられたようなシーンが一瞬映る。官民癒着も、SAGAS規模なら、呆っ気なく絶たれるのか。
経産省の極悪が予告されて、思わずニヤリ。安倍政権の時代では、経産省と警察官僚が、やりたい放題。経産省と大手企業の癒着が描かれたら、放映できなかったかもね。
五輪疑惑の摘発が相次いだのも、ポスト安倍時代になったから。テレビマンも恐れることはないよ。
INFORMATION
『アトムの童』
TBS系 日 21:00~
https://www.tbs.co.jp/atomnoko_tbs/