さあ、いよいよ出力80%の体験だ。佐藤准教授がパソコンを操作し、80%の月経痛体験が始まる。やがて腹部が強張るような違和感とともにゆっくりと刺激が強くなる。意外と大したことないのかもしれない、と思った直後だった。記者の口からうめき声とも悲鳴ともつかないくぐもった音が漏れた。
「痛い」という言葉すら発することができない。痛みをこらえるために歯を食いしばり、のけぞったり、腹部を抱え込むような姿勢で必死に耐える。腹部を四方から万力でギリギリと押しつぶされているような感覚だ。1回目の痛みの波が収まると、すぐに第2波が襲ってくる。耐えるものの、これがあと何回か続くのかと思うと絶望的な気持ちになる。写真を見返すと、自分でも見たことがない苦悶の表情をしている。
実際の体験は10秒ちょっとの短い時間だったのだろう。しかし、記者にとっては永遠に感じられるような長さであった。この痛みが数日にわたって腹部にとどまり、しかも毎月それを経験している女性たちは何とタフなのだろうかと思わずにはいられなかった。
「当初の目的は、女性同士の相互理解を深めることでした」
これは世の男性が生理への理解を深めるいい機会になるのではないか。そう麻田さんに伝えると、開発当初は男性が体験することを目的としていなかったという。
「確かに、男性が生理について知ろうとする今の風潮は良いことだと思います。ただこの装置を作った当初の目的は、女性同士の相互理解を深めることでした。というのも、女性は自分の生理があるのでどうしても他人の生理痛の辛さを、自分を基準にして考えてしまいがちです。しかし女性同士でも生理痛で休みたいのに理解してもらえないことがあるという体験談などを知って、痛みを言語化・数値化できないゆえの理解の難しさを感じてしまいます。
この装置を体験した女性の中には『こんなに痛い思いをしていたの?』と驚く方もいて、他の人の痛みを想像する指針になったのではないかと思っています。私自身も被験者の方と『私の生理はお腹の痛みと吐き気があって』といった話をしていく中で、本当に人それぞれの生理があることを知ることができました」