装置の体験を通すことで自他の痛みの差を理解し、他人の痛みを思いやることができる。それならより多くの人が体験するのが理想なのではないか、そう問いかけると麻田さんは「無理強いはしたくないですね」と苦笑いする。
「以前、装置のことを知った女性に『私も経験しなきゃいけないんですけどね』と言われたことがあるのですが、生理について『知らなきゃいけない』と強制する社会にはなって欲しくないんです。何よりこの装置は痛みを伴うので、強制すると拷問器具になってしまいます。それでも最近は生理について分かりやすく解説した漫画や記事も増えていて、数年前よりも生理を理解するハードルは下がっていて、その中でもっと生理を知りたいと考えた人の選択肢の1つになればいいなと思います」
「ここ数年で風潮が変わってきたように感じます」
長らく、日本の性教育の中では生理はタブーに近い扱いをされてきた。記者の学生時代は、保健体育の時間に女子生徒だけが集められて生理の授業を受けていた記憶がある。麻田さんも生理を語ることを避ける空気を感じていたが、ここ最近は変化を感じているという。
「この装置の開発期間には、『生理ちゃん』という生理を扱った漫画が炎上したことがあったり、まだ生理を公に扱う事への風当たりが強いと感じていました。それが、ここ数年で生理を理解しようという風潮に変わってきたように感じます。生理で我慢していた人が上司に相談しやすくなって、痛みを無理して我慢せずに休める社会になってほしいですね。この装置もそのきっかけづくりになることを願っています」
この日は、80%の時の反応に鑑みて、出力100%での体験は中止することになった。ほっとしなかったと言えば嘘になるが、それを毎月味わっている人がいるということは決して忘れないようにしようと改めて感じた。
折しも、より多くの体験希望に応えるため商品化を進めているという。「痛み」という個人的な体験をある程度再現し、共感の手助けをする。道徳の授業の絵空事と思われていた未来が、もしかしたらすぐ近くまで来ているのかもしれない。