エイト 山上容疑者との違いはなんだったと思います?
黒沼 私の家はあそこまでの家庭崩壊には至ってないんですけれども、やっぱり救いがあったかどうか、何か頼れるものがあったかだと思います。私はこれはしちゃいけない、あれはしちゃいけないというふうに育てられましたけれども、そのなかでも、自分にとって大丈夫な娯楽を見つけることができたので、それで救われたんだと思います。
エイト よりどころになるものがあった。
黒沼 ありました。それが、このTBSラジオやラジオから流れる音楽だった。
──ラジオを聴いていた?
黒沼 ラジオが大好きで、一番聴いてたのはTBSラジオでした。テレビが見れなかったので、夜中にラジオをコソコソ聴く習慣がありました。
──「JUNK(*お笑い芸人がパーソナリティを務めるバラエティ番組)」とか。
黒沼 「JUNK」、聞いてました。それこそ荻上チキさんも出られていた「Dig(複数の論客が日替わりでパーソナリティを務めていたニュース番組)」とか。
──「Dig」の頃から!
黒沼 初回放送を聴いています。
──本当ですか。嬉しい。「Dig」のときにも、カルト2世の話を取り上げていたのですが。
黒沼 そうですよね。だから自分のなかではタイムリーだったという。
──あの番組を聞いていた方のなかに、黒沼さんがいたとは……。
黒沼 嬉しいです。
──こちらこそです。でも、こう言うのもあれですが、「JUNK」とか「Dig」とか「Session」とかを聴くのは、教義上は良くないのではないですか?
黒沼 そうですね。
──私は「性教育しましょう」って言うし、「JUNK」は下ネタも多いし。
黒沼 多いですよね。だからなんか、やっぱりコソコソ、僕が勝手に摂取できるエンタメということで、隠れて聴いていました。本来はダメなのもわかってるからこそ、余計に面白くて、のめり込んでしまいました。
──確かにテレビだと検閲されやすいけど、ラジオをイヤホンでこっそり聴くっていうのは、逃げ道というか、抜け道だったのか。
黒沼 「困ってる2世よ、ラジオを聴け!」と言いたいですね。
エイト 素晴らしいですね。
──いまだとスマホもありますよね。使わせてもらえないところもあるかもしれないけど、使える人もいる。よく聞くのが、スマホを持つ頃になって自分の教団名を検索すると、ひどいことが書かれていて、疑問を抱く。そこで教義や教団への疑問が湧いてきた、という話はよく聞きますよね。
エイト そうですね。SNSで同じような境遇にある2世とつながるとか、いろいろ広がりが出てきますよね。
──事件の話に戻りますが、黒沼さんは、ご家族とこれから話したいと思っていることはありますか?
黒沼 やっぱり家庭崩壊に至るというのは、貧困の問題が絡んでくると思うんですけれども、もしうちが実際にそこまでになっていたら、母親はどこまで旧統一教会についていくつもりだったのか。父がもしそのまま旧統一教会に不信感を抱かないまま教会に残っていたとしたら、そこで離婚を考えたのかどうか、ちょっと聞いてみたいなとは思っていますね。
──「もしかしたら自分も」と考えるならば、どこかに戻れなくなったタイミングがあったかもしれないと。
黒沼 どこまで子どもを巻き込むのか、というところを聞いてみたいですね。