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「野うさぎの親子が現れた時、気づいたら銃を乱射していて…」韓国軍内銃乱射事件で地獄を見た兵士が語る「兵役」と「いじめ」

「野うさぎの親子が現れた時、気づいたら銃を乱射していて…」韓国軍内銃乱射事件で地獄を見た兵士が語る「兵役」と「いじめ」

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 韓国社会と兵役は切っても切れない関係にある。兵役は国民全体の関心事であり、実際に徴兵される青年男性にとっては、人生を左右する切実な問題であり続けている。

 だから兵役制度のひずみを韓国人は許さない。近年、最も深刻な問題として挙げられているのは「いじめ」だ。いじめによる集団暴行、被害者の自殺、果ては殺人まで、韓国軍ではいじめに起因する様々な問題が持ち上がっており、国民は軍に対して厳しい目を向けている。軍隊内で横行するいじめが注目を集めるようになったのは、ある事件がきっかけだった。大手紙国際部記者が事件について解説する。

手榴弾を投げ、銃を乱射した22歳イム兵長…原因は「いじめ」だった

「事件は2014年6月21日午後8時ごろ、韓国江原道高城郡にある陸軍の見張り所近くで起きました。イム兵長(当時・22歳)は、同僚に手榴弾を投げつけ、銃を乱射。5名が死亡し、7名が重軽傷を負っています。その後、イム兵長は逃走。23日、自殺を図ろうとしたところを取り押さえられ、2016年2月19日にイム兵長には最高裁での死刑判決が確定しています。ところが、イム兵長が事件を起こしたのは同僚からのいじめが原因だったことがわかっています。そういった経緯に対して情状酌量がなかったため、判決には大きな批判が集まり、いじめを内包していた軍の体制にも疑問が浮上するようになりました」

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イム兵長の捜索は韓国軍を挙げて行われた Ⓒ時事通信

 韓国で最後に死刑が執行されたのは1997年12月。それから25年にわたり死刑執行がなく、イム兵長は「事実上の終身刑」とされている。

「殴れ」と指示され断れば標的に…軍内で横行するいじめ

 この事件の2カ月前には20歳の一等兵がいじめによる暴行で死亡した別の事件が発生している。軍の調査によって、約4000件のいじめが過去にあったことが発覚してすぐの出来事だった。兵役の経験を持つソウル在住の30代男性は「軍内のいじめはいまも存在する」と話す。

「2014年は、軍内でいじめが横行している事が浮き彫りになった年でもありました。特に兵長による銃乱射事件は衝撃的でした。Netflixで配信されたドラマ『D.P.-脱走兵追跡官-』はこの事件をモチーフにしており、生々しい体罰やいじめの様子が放送されました。リアルな描写が話題になり、韓国国内では配信当時、『イカゲーム』よりも反響を呼んだ作品です。私は銃乱射事件の2年後に入隊しましたが、いじめはなくなっていませんでした」

 韓国軍では入隊順に厳しい上下関係が成立するという。この男性も5歳下の上官がいた。

「入隊した年齢が平均より遅かったので、私もいじめの標的にされました。掃除をおろそかにしたという理由で、就寝時間を過ぎても必要以上の掃除を強いられました。その生活が1週間ほど続き、痩せた私を見た上官や同僚が『そんなんじゃ使い物にならない。鍛えてやる』と腹部を何度も殴られるという拷問に近い体罰を受けました。新兵が入ってきた時には逆に『殴れ』と指示され、断ればまた標的にされるといういじめの構図が出来上がっていました」

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