「捕まれば死刑は免れない」と誰もが分かっていた
韓国軍による死に物狂いの山狩りの結果、イム兵長は発見され、追い詰められる。投降を呼びかけられるも拒否を続け、ついにはイム兵長の父親までもが現場に駆り出された。父の懸命の説得に涙を流しながらも、イム兵長は最後まで投降を拒否した。捕まれば軍法会議にかけられ、死刑は免れないことを誰もが分かっていた。
父親の懇願から30分後、イム兵長は自らの胸を撃ち自殺を図ったが未遂に終わる。命に別条はなく、病院に搬送され、この事件は幕を閉じた。イム兵長の遺書には「彼等は自分達の行動が相手にどれだけの苦痛を与えるか、察することができなかった」などと書かれていた。
「イム兵長が確保されてから、彼の所持していた武器は故障していたことが判明しています。つまりイム兵長は、駐屯地から逃げだした後は一切銃を撃っていない。それにもかかわらず捜索していた韓国軍兵士に負傷者が続出したのは、全て恐慌をきたした味方同士の『同士討ち』が原因だったといいます。さらに、捜索チームは6度もイム兵長と接触していたのに、確認を怠ったがためにそのまま通過させていたことも後々分かっています」(前出・国際部記者)
人間や国を壊す側になりかねない、兵役制度のゆがみ
事件の余波は大きかった。軍内におけるいじめの問題、兵士のメンタルヘルスケア、指揮命令系統や職業倫理の欠如。いずれも韓国軍の体制に直結する重大問題であり、今なお国民的な議論は続いている。少子化問題もあり、慢性的な兵員不足に悩まされていることも軍の存立基盤を揺るがす悩みの種だ。
人員の不足は円滑な人事を阻む。本来なら任務を外れるべき精神的に不安定な兵士ですら前線から引きはがせない状況も生じているという。そのような兵士を「関心兵士」と呼び、イム兵長もこの分類に該当していた。兵役制度のゆがみを目撃したキムさんは言う。
「事件後、遺族の方々はもちろんですが、私の母も『無事で良かった』と涙を流しました。国や人を守るための義務が、それらを壊すことがあってはならない。今のままでは壊す側になりかねない兵役制度のままなら、私は撤廃するべきだと心から思います」
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