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「ほかのクマが食ったものかな」山形県・朝日連峰の名狩人が語った「死んだクマのその後」

『朝日連峰の狩人』 #1

note

冬眠中死んだんだと思うけど、クマの共食いしたのだかなあ

 その翌年見に行ったら、ほの穴の中でクマ死んだ形跡あるんだね。皮はカラカイ(干物)みたいになってガラガラ皮ばりよ。冬眠中死んだんだと思うけど、不思議なことに頭蓋骨が木の上さ上がっていたんだね。だとクマの頭ってこだい大きいからね。キツネぐらいだと下さは降ろすかもしれないけど、上さはとても上げられないから、クマの共食いしたのだかなあ。

写真はイメージです ©getty

 見つけたのはクマ狩りの時4月だけど、死んだのは前の秋も早い時期だべな。やっぱりあそこさ来て、寝てて死んだのをほかのクマが食ったものかな。

 クマが死んでいるのめったに見られないし、ネコなんかも死ぬと死体見せないと言うし。苦しくなると穴さ入って寝んのでないかね。腹痛とかなんか死にそうになったら。でも爪とか牙からいうとかなり大きいクマだった。毛皮は使えなくって、牙なんかは持ってきたがね。

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クマのねぐらは木の穴、石の穴、土の穴

 クマのねぐらは移動すると思う。赤見堂の陰で本道寺の連中が逃がしたの。おらだ天狗にいて、天狗のすぐ陰通って、かなり大きなやつだから追っていったら、二ツ石の裏側行って、陰からコバラメキに入ってオオバラメキ、高松、そして、大朝日からヌルマタ沢まで逃げた、って朝日町の連中が話してたけどね。それくらい行動する。

 だと思うと、尾根1つ越して平気でいるやつもいるしね。

 雨が降って戻ってくるのじゃなくて、人が行ったんでクマが引き返したとか、撃ったけど逃がして反対方さ行ったって言ってると、3日、4日するとまたもとに戻ってたりする習性あるのだなあ。自分が行こうとした所には、何があっても行くのだね。

 冬眠する穴は、同じやつが入るのではないかと思う。捕まって何年かはそのクマが本当にいないのか見てて、別のクマが冬ごもりするのだな。

 木の穴、石の穴、土の穴、それから適当なやつだと、風倒木の根の下でも乾燥地だと寝るのだなあ。それから一番はなはだしいのは、尾根に台になるような石があって、その石にマンサクなんか覆いかぶさっているの。ある程度雪が降るとそれがふたになって穴みたいになるの。そこさ入ったの見たな。冬眠しているのだな。そしてその下に15メーター、20メーターぐらいの所に才槌(さいづち)穴って、岩穴で才槌型のいい穴があるのだな。だからそれ見ようと思って行ったら、その前の晩大雨あって水が流れ込んだから、クマ出はってきて、そこの上で昼寝していたのさ。ガヤガヤ行ったもんだから逃がしたけどね。

 そこさ冬眠していて、なんかトンネルみたいに2カ所ぐらい掘っていたね。だから、その才槌穴がわからなくてほこさ寝たんだ、って言う人もいたけどね。そしてトンネルは探した跡だってね。

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。

ヤマケイ文庫 朝日連峰の狩人

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志田 忠儀 ,西澤 信雄

山と渓谷社

2022年10月17日 発売

「ほかのクマが食ったものかな」山形県・朝日連峰の名狩人が語った「死んだクマのその後」

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