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 そんな状況なので資金難に陥り、港湾運営権が中国国有企業に99年に渡って貸し出されることになりました。この港は偶然にも、中国の一帯一路政策のルート上にあるのです。22年8月にはハンバントタ港に、中国の調査船が入港しました。海洋調査が目的だとしていますが、隣国インドは、インドの弾道ミサイルや人工衛星などの監視が目的ではないかと警戒しています。

スリランカは「性悪説に基づいた社会」

 そんな中でのデフォルトは、ある種の祭りでした。物が何も入ってこないため、生活が追い込まれたと実感した人々が団結し、不満の矛先がとうとう大統領に向いて、デモが起きました。ただし、一族の影響を全て排除できたとは思えません。彼らは今でも政治に大きな影響を与えています。また国民の大多数は、一帯一路という言葉を知りません。今回デモが起き、大統領を追放できたのは生活が困窮したからであって、彼らが中国と蜜月にあったことまでは見えていないのです。

にしゃんた氏(羽衣国際大学教授)

 スリランカは家族、一族の繋がりを大事にする文化です。逆に言うと、性悪説に基づいた社会です。家族しか信用できる人がいないのです。ですからビジネスでも、自分の周囲に家族を置いておくということはよくあります。スリランカではかつて、母親が首相で、娘が大統領になったというケースもありました。しかし、民主主義の国で、ここまで品格のかけらもなく一族が国を私物化したのは、歴史上でもほとんどないと思います。

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 私は、中国が政治・軍事的にスリランカを支配したいのだとは思いません。ただ、世界の経済を牛耳りたいのです。しかしその力は、軍事力と不可分なのです。

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2023年の論点100』に掲載されています。