少子高齢化が急速に進んでいるなか、日本の小学校受験戦争は過熱している。いったい、親はどのような考えのもと、子に受験を勧めているのか。
ここでは、日本大学文理学部教育学科教授の望月由起氏の著書『小学校受験~現代日本の「教育する家族」』(光文社新書)の一部を抜粋し、幼児教室での調査を通じた保護者の声を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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「受験する」理由の現代的特徴
「受験家庭調査」で尋ねた「小学校受験を検討した理由」に関する20項目について、該当率(4段階評価での「あてはまる」+「まああてはまる」の回答率)の高い順に並べたものが図3-17である。
この結果をふまえて、小学校を「受験する」理由の現代的特徴として、以下の4つの傾向に着目したい。
(1)しっかりとした家庭(の子ども)と過ごす教育環境への期待
第一に、「しっかりとした家庭やその子どもと過ごす教育環境を小学校に期待している」という傾向である。図3-17からは、最も該当率が高いのは「国立・私立小学校の方が、しっかりとした家庭の子どもが多いと思うから」であり、およそ9割(全体の87.8%)が該当していることがわかる。
ここでいう「しっかりとした家庭」には、2つの意味があるのではなかろうか。
1つは、「親子代々、小学校受験をする」ような家庭である。代々引き継ぐ経済資本をバックにもつ、いわゆる「上級階層家庭」を意味し、文化資本を共有しうるような社会関係資本を重視するような場合である(*1)。小学校受験に詳しい石井至が『正しい「お受験」』(幻冬舎)にて「エスタブリッシュメント」と称したような、古くから私立小学校に縁のある家庭が代表的であるが、地域によっては、代々、国立小学校への受験・進学をするような家庭も含まれるだろう。
*1 フランスの社会学者であるピエール・ブルデューらによる文化的再生産の理論では、家庭で子どもに伝達されるものを「資本」と呼び、経済力から直接的に受ける「経済資本」、家庭にある本や芸術などの趣味から受ける「文化資本」、友人や知人とのネットワークから受ける「社会関係資本」に分類している(宮島喬 訳『再生産──教育・社会・文化』)。