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「すごい熱量で好かれるけど嫌われもする」離婚、事務所独立…前田敦子が“不機嫌で怒れる女優”から目指す30代の姿は?

2022/12/16

genre : エンタメ, 芸能

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過呼吸になりながら、最後にはオーラを見せつける

今年10月22日に公開された「NIPPON.COM」のインタビューで、

「自分に人気があると思ったことは一度もなかった」

 と語っているのを読んだが、すごく不安そうだったものなあ、と納得してしまった。トップ争いはしているのだけど、誰かと競うのではなく、自分にしか見えないパンチングボールをずっと叩いているイメージ。過呼吸になりつつも、最終的にはしっかりとステージでオーラを見せつける。けれど決して馴染まない。アイドルながらハッピーオーラより「孤独と重さ」が目につき、ゴツゴツと周りにぶつかる岩のような感じにハラハラした。

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 2010年にはAKBのメンバーで構成されたドラマ「マジすか学園」があり、これはとても面白く観た。前田敦子は一匹狼の役。周りがヤンキー仕様でオラつく中で、一人だけ制服をきちんときて介護士の専門書を読んでいるような女の子。しかしいざとなったら誰よりも強い……という役だ。まさに持ち味にぴったりだったが、当時の私は、優子役の大島優子、ゲキカラ役の松井玲奈に惹かれ、前田の演技の良さにはまだ気づけていなかった。

©文藝春秋

リアルでむきだしのヒステリー感

 ところが、アイドルを卒業後、映画を中心に活動を始めた彼女の演技にどんどん惹かれていった。「町田くんの世界」「くれなずめ」「もらとりあむタマ子」(視聴順)――。彼女の出演はテレビより映画が多く、しかも単館系。多分、サブスクリプションがここまで浸透していなかったら、私の中で前田敦子は「AKBで大変そうにセンターをしていたあっちゃん」で終わっていただろう。

 しかもAKB48の時代、少し苦手だった彼女の頑固そうな真顔と感情的な声が、演技というフィルターを通し、凄まじい魅力となっていたのである。

©文藝春秋

 特に声。普段は低く甘いが、感情が高ぶると少し高めのかすれ声が混ざり、正直かなりうるさい。「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください!」というあの名ゼリフで感じた「すごく切羽詰まっている」圧。しかしそれが逆にストーリーを盛り上げる最高のスパイスとなっている。同じ「ドラマチックヒステリー声」を持つ代表的な女優に賀来千香子がいるが、彼女も前田も、叫びに凄いエネルギーを感じるのだ。

 前田敦子は2021年の映画「くれなずめ」の委員長役で、ゴミの分別一つにそりゃもうギャンギャンと吠えまくっていて、このやかましさも素晴らしい。実にリアル! 怒る演技に、激しさや名演を狙っていないというか、不機嫌さをそのままぶつけてくる感じで臨場感がハンパではない。多感な時期にAKBで「日本中からすごい熱量で好かれもするが嫌われもする」という特異な立ち位置にいた彼女。その経験からか、人気も評価もすべて一過性のものと割り切っている覚悟が見える。

 好感度など、とうの昔にかなぐり捨てたという感じ。前田敦子は「むきだし」だった。