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《官房長官、里親になる!?》「児相も僕のことは”里じい”だと…」大物政治家・塩崎恭久 が“里子”のために70歳以降の人生をささげるワケ

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地域によってかなりの格差がある里親委託率

――なかなかマッチングしないのも納得です。他の都道府県ではどうなのでしょうか。

塩崎 各自治体の意識の問題は大きいです。たとえば福岡市では、僕が大臣のときに視察にお邪魔した際、すでに里親担当の職員が4人いたし、今は7~8人に増えています。これは18年間にわたって福岡市の児童相談所の所長をされていた方が、職員の専門性を高めつつ、民間NPOと対等なパートナーシップを組みながら、里親委託や養子を増やそうとご努力なさってこられたからこそ可能だったことだと思います。

 その所長の赴任当初は里親のエキスパートの職員はいなかったそうですが、所長自ら目的を明確にし、専門性のある人を採用するようにした結果です。しかも里親支援NPOと組んで互いに補いあいながら制度を進めているので、里親委託率はとっくに50%を越えており、0~2歳の乳幼児の里親委託率は国の目標の「75%以上」もすでに越えています。

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里親制度の課題と展望をビシビシ指摘する塩崎さん Ⓒ文藝春秋/撮影・山元茂樹

――日本全体の里親委託率が2割程度であることを考えると、地域によってかなりの格差がありそうです。

私たち大人の1日とは全く違う「子供の1日の重み」

塩崎 子供の1日は私たち大人の1日とは重みが全く違います。その子の生きる今日という1日は、一生に1度しかない大事な心の発達や養育途上の1日なのです。それを既に終えている大人が、子供の人生のために、何もかもを迅速にやってあげないといけません。

 子供の性格や抱えている問題も、里親側の環境もどれも千差万別です。その中でより良い組み合わせを考える作業は、少ない人数でやりきれる仕事ではありません。今の松山ではたった1人で奮闘されている。どう考えても人手不足でしょう。もっと職員の数を増やすのが基本でしょうし、さらに加えて、オーストラリアで行われているようなAIによるマッチングなどデータエビデンスに基づく科学的な社会的養育も、これからは検討していかなければならないと思います。

写真はイメージ ©️iStock.com

――民間との連携も重要なポイントになりそうです。

塩崎 僕がもともと考えていた地元・松山市におけるフォスタリング機関の立ち上げ支援も進みつつあり、県へのフォスタリングNPOの立ち上げ申請が先日行なわれたと聞いています。フォスタリング機関とは、里親と里子に対して、包括的な支援を目的とするグループのこと。親と子供をマッチングさせて「はいおしまい」とするのではなく、持続的で切れ目のない支援を目指します。里親のリクルートから始まり、その前後に生じるであろう色々な課題を、児童相談所と緊密に連携しながら一緒に解決するための組織です。

 ソーシャルワークは手間もかかるし気遣いも多い仕事です。たとえば子供が障害を持っている場合にはどうすればいいかといった研修や、里子を訪問する丁寧なアフターケアが必要ですが、そういう細かな事業をサポートするフォスタリング機関が民間にできれば、児相はシステムを作ったり、問題への対策を考えて決定したりといった行政的な役割により集中できる。そういう官民のパートナーシップのもとで、子供を社会的に養育できるようになることが理想です。