「里親制度」が認知されていないことが最大の課題
――あとは、里親になる家庭を増やすことも大切かと思います。
塩崎 里親登録している家庭は全国で1万2千世帯(養育里親)ありますが、実際に委託されているのは4千世帯しかありません。そもそも「里親制度」そのものが認知されていないことがこの制度にとって最大の課題と言えるかもしれません。
短期でもできること、養育費が支給されること、共働きでもできること、そして何万人もの子供が待っていること。そんな里親に関する情報が根本的に知られていないんです。それでもアンケートなどを分析すると、6.3%の人が潜在的に里親をやってみたいと思っている。この数字は、たとえば30~60歳代の世帯に限ったとしても、100万世帯にはなります。
――待っている子供たちを遥かに超える数ですね。
塩崎 子供を受け入れることができる、受け入れようとしてくれる家庭の数が多い、そのこと自体が大事なんです。100万世帯が登録してくれれば、ほとんどの子供たちが何らかの形で特定の大人のもとで、愛着を経験して人格形成がされていくことができるようになります。私が望むのは、なによりもまず子供自身の豊かな心の発達と人格形成です。社会がそれをサポートできるような環境づくりのために養育費の額を引き上げたり、2人目の里子でも同額を支給したりと、国も制度を通じて社会の意識を変えようとしています。
子育て経験がなくても、愛がある家庭の方が絶対に良い
――お2人は子育てを終えてからの里親登録ですが、やはり子育ての経験はあった方が良いものでしょうか。
塩崎 もちろん、経験があれば手慣れていていいのではないかとは思います。一方で、僕が官房長官をやっているときに、大阪で男性カップルの里親申請を許可したという事例があった。どう思いますかと記者に聞かれたので「大歓迎」と答えました。愛せずに虐待する親に比べれば、子育て経験がなくても愛がある家庭の方が絶対に良い。そういう意味では、子育て経験がない人たちや独身者の登録も十分選択肢に入ると思います。
千枝子 子育てをしたことのある方は経験も豊富ですし、里子で来る子が普通よりも困難を抱えていることを理解している印象です。一方で、子供ができずに養子縁組をしたいと思っている若い方々にとっては、子供に対する期待値が高い分、現実とのギャップで苦しむことも出てくると思います。そういう方々には、丁寧なソーシャルサポートの仕組みが必要ですよね。周囲に支えられて経験しながら学ぶのは、血を分けた子供を育てる親でも同じですから。
――今後の展望をお聞かせください。
塩崎 我々もいつまで元気かわからない歳ですから、難しい子を見る体力もないですし、小さい子を預かって18歳になるまで育てるというのも厳しい。児相も、塩崎さんのところは里親じゃなくて「里じい、里ばあ」だと思っているでしょうから、その上で何ができるか考えてくれているんじゃないですかね。短い見通しの一時保護の際に預かることや、あるいは虐待寸前のようなところまでいってしまっている親のレスパイト先として何日間か預かってあげるようなことは僕らにもできるんじゃないかなと思います。
千枝子 じいじ、ばあばの家にいくような感覚で来てくれればいいですね。何年もお子さんを預かる体力的な自信はないですけど、いつでもウェルカムな緊急避難先があるっていうのは、子供たちにとっては安心できたり、救われる機会が増えるんじゃないかなと思います。
塩崎 歴史的に見れば、日本は集落単位で子供を育ててきたはずですから、現代にもそのメンタリティは日本人の心の底のどこかに流れていると思います。制度的、予算的に足りないところを民間で補うことで、そういった社会の本来の子育て力を取り返す一助にしたい。そのために実践の意味での里親と、制度を整えてもらえるような国会への働きかけをしていこうと思っています。