日本では合法的に中絶が行われるようになってから半世紀に渡って、中絶方法の実態調査は行われてこなかった。2010年に私も関わった金沢大学の研究者等による初の調査が行われ、吸引に比べてリスクの高い「掻爬」が多用されていることが判明した(妊娠12週未満の初期中絶を行う医師の八割が掻爬を選好していた)。
局所麻酔ではなく、よりリスクの高い全身麻酔が慣例に
2年後に、指定医師の団体である日本産婦人科医会がより大規模な調査を行い、初期中絶の8割で掻爬が使われていたと報告しながら、「日本の中絶は安全」との結論を出した。この時の調査や結果の分析方法は、医会の医師たちの利害によって歪められた可能性がある。
2019年に再び医師たちによる調査が行われたが、掻爬は単独または吸引との併用で、初期中絶の六割以上でなおも使われ、多数派だったのである。日本では吸引単独での中絶はまだまだ少数で、世界標準の鎮痛手段として主に使われる傍頸管ブロックという局所麻酔ではなく、よりリスクの高い全身麻酔が慣例になっている。中絶薬も長らく未承認の状態が続いている。
「日本の中絶はガラパゴス化している」
1994年のカイロ国際人口開発会議で「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」という理念が脚光を浴び、世界保健機関(WHO)は2003年に『安全な中絶』というガイドラインを発行した。その中で、妊娠初期の中絶については中絶薬と吸引が安全だと明記され、D&Cは安全な手段が使えない場合の代替法とされた。だが2012年には、D&Cは「廃れた方法で、今も使われているなら安全な方法に切り替えるべき」と記されるようになった。
こうした事実に照らして、「日本の中絶はガラパゴス化している」と私は2014年に著書の中で指摘した。日本の中絶が今もなお世界に「遅れた」手法で行われている要因は様々だが、「指定医師」たちによる掻爬という手技への熟練と、結果としての自負も一因かもしれない。