“目を切る”というのは通常あまり使われない言葉かもしれませんが、万引き界隈では普通に使われる用語です。目を切るといっても、別に目をケガするわけではありません。これは目(=視線)が切れる(=寸断される)という意味で、ずっと見続けていた視線が途切れることを意味します。
たとえばある人物が棚から商品を盗んだ瞬間を目撃した(=現認)とします。そこから彼がレジで代金を払わず、店の敷地を出るまでずっと視線を外さずに見ていられたら、それは“目を切られなかった”ことになります。
現認した後、目を切られないまま外に出たら、盗んだ商品を必ずどこかに所持しているはずです。そうであれば万引きを確定し、犯罪を証明することができます。唯一その場合だけGメンは容疑者の確保に踏み切っていいのです。
「どうしてくれるんだ!」賠償金を求める悪者も
しかし現実はそう簡単にはいきません。容疑者は自分が疑われていることに気付いている場合もあり、対策を練っている場合もあります。また、こちらをダマしてわざと捕まえさせ、後で「どうしてくれるんだ!」と賠償金・示談金を吹っ掛けてくる悪者もいます。
一例として、現認で盗んだ瞬間を目撃しても、犯人が商品棚を曲がった瞬間に盗んだ商品を棚に戻していたら声を掛けても商品は出てきません。これでは犯罪は証明できませんし、そもそも犯罪になっていません。これは目が切られてしまったということで、100%の確証が崩されてしまった状態になります。
少し想像すればおわかりでしょうが、現認から容疑者が店を出るまで目を切られないようにするのは、とても大変です。容疑者が角を曲がった瞬間には必ずタイムラグが発生しますし、棚の多いお店には死角となる場所も数多くあるでしょう。商品を持ったままトイレに入られたらそれもアウトです。
そもそも目を切られまいとものすごい形相で容疑者の後を付いて回っていたら、Gメンの存在がバレてしまって逃げられてしまうこと必至です。