“証拠”が見つかってはたまらないと抵抗するおばあちゃん、そのまま逃げられたらこっちもたまらない万引きGメン……私たちはひとつのバッグをめぐって取っ組み合いをしているような格好になりました。
この時私は「これではまわりの人たちに、私がおばあちゃんからバッグをひったくってるように見えてしまう!」と非常に焦りました(笑)。しかし「この人、万引き犯なんです!」と叫んでしまうと、彼女のプライバシーをさらしてしまうことになるのでそれはできません……。
結局野次馬が集まる中、警備員を呼んでもらうことで私はその場を収めました。その時思ったのは「ギリギリまで追い詰められたら、老婆でもすごい力が出るんだな……」ということ。実際その時のバッグを引っ張る力は、やせ細った老婆の姿からはとても想像できないものでした。
万引き老人に見た「社会の闇」
正直、年配の方の万引きは非常に後味が悪いものです。もちろん罪にいい悪いもないのですが、若い人の万引きはまだその先に救いがある場合が少なくありません。人生の出発点付近での過ちは、その後いくらでも取り返すことができます。若気の至りと呼ばれるようなケースもあるでしょうし、むしろそれをきっかけに立ち直る場合もあるでしょう。
しかし老人の犯罪というのは、いわば人生の最終地点での過ちです。その後、取り返すことが難しいことはもちろん、悲喜こもごもの人生の果てに流れ着いたのが万引き(しかも堂々とシラを切ったり開き直ったり、悪態をつく)という事実は、考えただけでやるせないものがあります。
さらにやるせないのは、老人の万引きの背景には大きな問題が隠されているケースが少なくないことです。犯罪に至るには、それ相応の理由があります。たとえば貧困の問題、孤独の問題、精神疾患の問題、生きがいの喪失の問題、家族崩壊の問題、社会コミュニティの消失の問題……老人の万引きの背後には、こうした膨大な社会問題が影を落としていて、それが私たちをさらにやり切れない気持ちにさせます。
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