作・編曲を手がけた渡辺宙明先生の言によれば、NGの連絡があってから「代打の主題歌」作曲までの期間はレコーディング・スケジュールが決まっていたためわずか3日。
元の「Zのテーマ」は『子連れ狼』(’70年)などで知られる劇画原作者・小池一夫先生の作詞。“人のいのちは つきるとも 不滅の力 マジンガーZ”という出だしで始まる歌詞は『マジンガーZ』という作品の本質を謳いあげていたが、東映動画(現・東映アニメーション)上層部は「パンチに欠ける」という判断から主題歌を却下。
「彼女は死の直前まで『Zのテーマ』を口ずさんでいた」
結果、挿入歌となり先の顛末となった次第だが、後年この「Zのテーマ」にまつわるエピソードが宙明先生の耳に入った。そのことを’78年に徳間書店刊行の「ロマンアルバム9 マジンガーZ」で宙明先生が述懐されている。
「『Zのテーマ』についてあるファンの女性から次のような話を聞かされた。彼女の友人のある女性が病気で他界してしまったのであるが、彼女は死の直前まで『Zのテーマ』を口ずさんでいたそうである。私にそのことを教えた彼女は“彼女はこの歌に勇気づけられ病気と戦っていたのでしょう。この歌は、悲しい時苦しい時に私たちの心の支えになってくれるのです。世の中に数知れぬほどの歌がありますが、こんなにも私の心に入ってきた歌は『Zのテーマ』だけです”と語った。私はその話を聞いて胸が熱くなり生きがいとはこういうものかと感じた。その話によって私も勇気づけられたのである」
この話を宙明先生から聞いた水木さんは、一気に迷いが吹っ切れたという。自分の仕事の意味・意義、そして大切さ。自分の歌が人に生きる勇気を与える力を持っていることに気づいた水木さんは以降、確かな自信と誇りをもって“アニソン”を歌えるようになったのだった。
「どんな歌詞でも歌いこなすのが歌手じゃないのかい?」
その「ゼーーーット!!」に代表される水木さんのシャウト、通称、雄叫び = OTAKEBIだが、最初から意図されていたわけではない。もちろん『マジンガーZ』で誕生したのだが、そこにつながるエピソードがある。