水木さんが『マジンガーZ』とほぼ同時期に歌った主題歌に、さいとう・たかを先生原作の特撮ヒーロー『超人バロム・1』がある。
その歌詞は“ブロロロロー”や“ズババババーン”など擬音の嵐。そんな歌詞は初めてだった水木さん、レコーディングに立ち会っていた平山亨プロデューサーに思わず「こんな歌詞、歌えませんよ」とひと言。
すると平山Pが「どんな歌詞でも歌いこなすのが歌手じゃないのかい?」と返し、歌手魂を揺さぶられた水木さんは見事に“ブロロロロー!”とシャウトして歌いあげた……という逸話が残されているが、じつはこのお話にはもうひとつ裏話があった。
後年、このお話を平山P自身にぶつけたところ、“歌手じゃないのかい?”発言については「そんなえらそうなこと言ったかな? でも苦し紛れに言っちゃったかもしれない」としつつ、
「あの時はまいっちゃって。歌詞だけ見ていけると思ったんだけど、いざ歌おうとしたときに、確かに水木さんの指摘どおりどう歌っていいのか僕もわからなくって。苦し紛れに自分で『ブロロロロー!!』って叫んでみたんだ。こんな感じで全部叫んじゃ
えばいいんじゃない?と言ったんだよ。そうしたら水木さん、“ブロロロロー!”と叫び出してね。“ああこれならイケます”と言ってくれたんだ。あれ(バロム・1)以降、水木さん、平気で叫ぶようになったでしょう? だから苦し紛れもたまには役に立つもんだと思って」
やはり名曲は、名クリエイター同士のせめぎ合いで誕生するものだと改めて実感した。
今年の11月、“最後の地方巡業”長野の町で起こっていたこと
筆者は2000年に刊行された水木さんの評伝本「アニキ魂~アニメソングの帝王・水木一郎の書~」(アスペクト刊)に寄稿、豪華CD-BOX「熱風伝説 水木一郎」(’98年)の解説書にも執筆……と、水木ファンとして幸運に恵まれた。
そんなご縁もあり、去る11月23日(水)、知人からの強い誘いを受け、小諸市文化会館で開催された、水木さん、堀江さん、影山ヒロノブさんの3人による「アニソンBIG3スーパーライブ2022」に足を運んだ。
当日は後輩歌手の遠藤正明さんも急きょ応援に駆けつけBIG4となったが、車椅子に座った水木さんは、途中楽屋とステージを往復しつつも3人に支えられ、結局ステージの幕が降りるまで壇上にい続けた。
途中、“まだここにいたい”というゼスチャーをした水木さんを見た堀江さんが「アニキは歌手だもんね。ステージの上にいたいんだよね」とつぶやき、目にひと筋の光が……それも一瞬のことで見事に次の歌をひとりで歌い上げた。自分をはじめ観客たちは必死に涙をこらえていた。