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「転校したということにもできます」高2男子が自殺…学校幹部がいじめ被害者の両親に提案した“偽装工作”

著者は語る 『いじめの聖域』(石川陽一 著)

『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』(石川陽一 著)文藝春秋

「このまま“突然死”ということにしても良いかもしれませんね」「我々は遺族の意向に沿えれば、何でもできるんです。希望されるのであれば、“転校”したということにもできます」

 2017年4月、高校2年生の勇斗君(当時16歳)が公園で自ら命を絶ち、いじめを示唆する遺書が見つかった。その1週間後、少年の両親に、学校幹部が偽装工作を提案したのだ――。

 ジャーナリストの石川陽一さんの初の著書『いじめの聖域』は、少年の両親が学校と闘った5年間を綴ったノンフィクションである。

 将来ディズニーリゾートで働くのが夢だった勇斗君は、長崎市の私立海星学園に通っていた。野球部は甲子園常連、進学実績も申し分ない、創立130年でカトリック系の中高一貫校だ。

 石川さんが海星高のいじめ問題を取材し始めたのは、学校の敷地内で生徒が自殺した19年5月だった。

「校長は『遺族の意向』を盾にして、記者の質問に答えることを拒みました。態度があまりに酷く、舐められていると感じたんです」

 この自死の背景について裏取りができず難航する中、勇斗君の両親が協力してくれた。〈息子のように苦しむ子供を二度と生み出したくない〉と願う両親は真相解明と再発防止を求め、学校と交渉を続けていた。第三者委員会が設置され、その報告書で〈自殺の主要因はいじめ〉と認定されても、学校側は「論理的な飛躍がある」と否定。いじめと自殺の因果関係を認めず、不誠実な対応を繰り返していた。

「私学である以上、法律で罰せられず、行政も手を出せない。これを許してしまうと、また同じことをやるところが出てくるはずです。一方、被害者である遺族は酷い目に遭う。なぜ遺族だけが精神的にも経済的にも物理的にも苦労しなければならないのでしょうか」

『必殺仕事人』の中村主水(もんど)に憧れていた石川さん。「正義の味方を気取るつもりはありませんが」と断って、

「明らかな不条理や人権侵害があった時、記者は市民のために闘わなければ、世の中にいらないんじゃないかと思われてしまう。既存のメディアへの信頼は揺らいでいます。だから闘うべき時は徹底的にやらないと」

石川陽一さん

 早稲田大学のジャーナリズムがテーマの講義やゼミがきっかけで記者志望に。花田達朗教授(当時)やアジアプレス・インターナショナルの野中章弘氏、朝日新聞の特別報道部長を務めた依光隆明氏らに学んだ。

「ゼミで沖縄、大阪の西成や秋田の農村へ行ったり、中国残留孤児の方にお会いして面白いと思ったんです」

 共同通信に入社後、福岡支社を経て18年に長崎へ。

「長崎支局は被爆者や平和教育、諫早湾の干拓や西九州新幹線などテーマが多く、忙しかったですね」

 業務の合間を縫って、勇斗君の両親に取材した。出版するとは決まっていなかったが、本にしたいと考えて、20年春から週に一度、5~6時間、時系列順に一から話を聞き直した。両親は葛藤しつつもメモやLINEを照らし合わせながら話し、学校や行政機関との会話の録音データを託した。石川さんは「読者にとっての新事実はスクープになる」と20年11月に特集記事を配信。Yahoo!ニュースのトップページや、東京新聞社会面トップに掲載されるなど反響を呼んだ。

 本書の執筆後、石川さんに子供が生まれた。

「我が子のためなら親は何でもやれるんだな、と。しかし、自分がもし同じような立場だったら、ここまで闘えるのかとも思います」

 両親は現在、学校側がいじめ対策を怠ったとして損害賠償を求めて訴えている。

いしかわよういち/1994年生まれ、石川県出身。2017年に早稲田大学スポーツ科学部を卒業し、共同通信へ入社。18年に長崎支局へ異動、海星高いじめ自殺問題のほか、被爆者や平和教育等を取材。21年から千葉支局で勤務中。

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