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「小6のときに裸足で外に逃げ出した」うつ病の母が覚せい剤使用、家には男が何人も…20代元ヤングケアラー男性の“壮絶な過去”

『「ヤングケアラー」とは誰か 家族を“気づかう”子どもたちの孤立 』より #2

2022/12/20

 繰り返される「~けど」は、母親の病と困難を指し示している。そこから「母親を目離すことが難しい」という帰結が生じている。「ちょっと心配」というショウタさんの「ちょっと」はこれからも特に「しんどい」場面でたくさん登場するが、「すごく」の言い換えとも読める。

「母親が自分の胸に包丁突きつけてた」という状況はおだやかなものではない。「なかなか母親を目離すことが難しい」のは当然だ。この「なかなか」はこのあとも何度か登場し、ショウタさんがそこへと追い込まれた状態、特に母親とともに家にとどまる状態を示す場面で使われる。

 数日間続けて寝込んでいる母親とともに家にとどまり、自分と母親の食事を準備するという仕方で、具体的なヤングケアラーとしての役割が語られる。うつ病で寝込んでいる母親のそばに小学生のショウタさんがとどまって世話をするのだが、この情景はこのあと高校生の頃まで続く。子どものご飯を準備できない状態は外からは「ネグレクト」と呼ばれてしまうかもしれないが、ショウタさんは母親が抱えている「しんどさ」を「心配」している。つまりヤングケアラーとして、この状況を経験している。

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写真はイメージ ©iStock.com

繰り返される転居

 母親が寝込んでいるそばにとどまる静的な場面と並んで、もう1つ頻出するのが動的な情景だ。

ショウタさん 母親の彼氏が何人かいて、一緒に生活してた人は何人かいたんですけど、1人目で、彼氏からこっちの家に来てた、生活してた人がいたんですけど、その人もだいぶDVする、母親に手上げるような人で、ちょっとひどかったので、警察ざたになって、その人捕まって。その人とまた会うっていうか、また家来られたら怖いのでっていうことで、引っ越すこともあって、それが、そんなんは3、4回ぐらいありました。

 

村上 3、4回か。

 

ショウタさん X区に住んでたときは2回あって、また新しくできた彼氏の家に一緒に住んでたんですけど、その人も暴力する人で。母親がなぐられても、母親は耐えてはいたんですけど、一回、母親が……(彼氏が母親を)なぐってるとこを僕が見つけて、かばったときに、僕もなぐられて、目が腫はれてたんですね。母親は、「子どもに手出すなんかあり得へん」ってなって、すぐ、なぐられたすぐ次の日に夜逃げしてましたね。

 

村上 お母さんは終始、ショウタさんの味方というか。

ショウタさん そうですね。子どもが、子どもっていうか、僕が一番には思ってくれてたので。

 母親の身辺を描写する4回の「~けど」に続けて、「夜逃げ」が帰結する。数日間母親が寝込んでいる情景と並んで登場するのが、「彼氏」からの暴力とそこから逃げる場面だ。寝ている状態と夜逃げという静と動の対比が、語りの背景を成す。

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