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「以前弥頭1佐に会ったとき、私たち4年生がひたすら怖かったと言ってましたが、実は同じ大隊の1年男子や他大隊の目もあるので、あえて厳しくしていたところもあった。彼女らが早く学校に馴染んでほしいという気持ちとは別に、指導の基準を下げて1年生全体を軟弱にできないという葛藤があったんです」(角谷)

 各学年で2人ずつ、4学年8人のグループで作る「部屋会」は、4年生がその部屋長となって下級生の面倒を見る。「対番」と同様に防大の伝統的な学生間制度だ。

 角谷はこう言う。

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「部屋長として普段厳しくしていても、『困ったことがないか』とか、『いじめられてないか』など、やはり気は使ってます。あのころの第2大隊の、とくに彼女らが所属する23中隊と24中隊の4年生は、それが女子であっても『自分たちの1年生を守る』という気持ちに変わりはなかった」

「おまえら要らねぇ」と何度も言われた

 オンナがいる中隊は訓練が楽でいい、そもそも建物すらオンナ臭い。そんな陰口も聞かれた。

男子学生と共に入校式に出席した防衛大学校の女子1期生(画像:時事通信)

 防大の新入生時代を思い起こすのは、弥頭と同じ女子1期生の金野浩子だ。ときおり笑いを交えてこう語る。

「防大に入ると、『なんじゃここは』と驚くようなことっていっぱいあった。そもそも防大は女性に門戸を開いたって大々的に謳っているのに、上級生たちは、『こいつら何しに来たんだ』という雰囲気。『おまえら要らねぇ』は、何度も言われました。ある程度覚悟してはいたんですけど、そういう女性に対する拒否的な言動が一番びっくりしましたね」

 訓練環境の厳しさは、男も女も関係ない。それこそが防大であるに違いないと思っていた。ところが自分ではどうにも解決不能なその「性別」によって心ない言葉が浴びせられたのだ。

「夏に8キロの遠泳があるんですが、『どうせお前ら泳げねぇだろ。4キロでやめとけ』って私ら女を小馬鹿にして先輩が言うんですが、女子は皮下脂肪が多いせいか、意外に最後まで泳ぎ切れるんです」(金野)

 1学年の女子が所属する当時の第2大隊は別名「海上大隊」と呼ばれていたほどで、観音崎にある防大の走水海上訓練場で2年の春に行われる学内のカッター競技会では、常に優勝を狙っていた。そんなことから漕艇訓練では非力な女子は最初から体験程度しか許されず、漕ぎ手に選抜されることなどない。

 その代わりにと上級生から命じられたのが、陸上競技場でのサーキットトレーニングだった。2リットルのペットボトル2本に砂を目いっぱい詰め、さらに水で浸して増量し、紐で首から提げてトラックを走る。先輩の号令で立ち止まり、その場で腕立てやスクワットを命じられ、行けといわれてまた走る。そういったハードトレーニングが延々と繰り返された。