さて、ツアー登山に参加したら、
(4)参加者同士で自己紹介を。
今回の事故の生還者からは「事故を報じる新聞を見て、初めて亡くなった人のことを知った。(略)名前も住所も、職業もほとんど知らない。でも、大好きな山の話になると、みんな夢中になった」(東京新聞・7月19日)という証言もあった。個人情報保護法ができてから、主催者が参加者の電話番号や住所、名前さえも知らせないこともあるようだが、参加者同士が仲間意識を持てないような雰囲気は、何かあったときに問題になりかねない。これから山歩きを共にするのだから、住所や電話はともかく、名前や登山歴ぐらいは自分から披露してみてはどうだろう。
ちなみに僕が主催するツアーでは、参加者の連絡先はリーダーだけが持つのではなく、全員で共有してもらう。そうでなければ、もしリーダーが崖から落っこちたら、家族に連絡を取ることもできないからだ。これは危機管理の問題で、個人情報の保護よりも優先されるべきだと思っている。
最後に、登山者として大切なこと。
(5)「行きません」と言う勇気を持とう。
例えば土砂降りの雨のなかでの日帰り登山で、出かけたら遭難しそうだと思ったら、「自分は行きません」と言えばいい。それで問題になるのなら、とっとと契約破棄の旨を自分から伝えよう。山小屋を出発する朝、非常な悪天候で、自信を持ってついて行けないと思ったら、小屋に残って天候回復を待つという選択もある。人気コースであれば、どんどん新しいパーティがやってくる。事情を話し、その人たちの後について下山すればいい。
中高年登山者に期待
ノルウェーではこんなことがあった。日帰りハイキングで目指した山で、現地ガイドが頂上まで行かないかと提案してくれた。しかし、思ったより足場が悪い。もしも濡れた岩場で滑ったら大事に至る。「僕は行きません。今回はここまでにしておきましょう」と言うと、みなさんも同じ考えだった。
ガイドはとてもホスピタリティ溢れる人で、装備もきちんとしていた。それでも僕はそのとき、自分たちは行かない方が安全と思ったのだ。キャリアや年齢に関係なく、そのときの体調、天候によって判断を下すのは基本である。当然ながら、山では自己判断がすべて。ガイドがいたとしても、自分で考えて最善の行動を取るべきだと僕は考えている。
僕は「1億2000万人総登山者化計画」という理想を掲げている。山の素晴らしさを日本の全国民に知ってもらいたい。中高年登山者こそがその牽引役だと期待している。だからこそ、5つの心得を胸にとめて、安心安全登山をしていただきたいのだ。
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