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大雪山系遭難の教訓 登山ツアーが“死の行軍”にならないための「5つの心得」

大雪山系遭難の教訓 登山ツアーが“死の行軍”にならないための「5つの心得」

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2023/02/12

source : 文藝春秋 2009年9月号

genre : ライフ,

note

 雪崩が起こりうる冬山での遭難はおそろしいが、夏にもリスクがある。2009年7月、夏山登山としては「過去最悪」とされた北海道大雪山系のトムラウシ山での遭難事故について、登山家で登山教室「無名山塾」主宰(現在は顧問)の岩崎元郎氏による寄稿(「文藝春秋」2009年9月号)を掲載する。(全2回の2回目、前編から続く)

(※肩書・年齢等は記事掲載時のまま)

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1時間半が悔やまれる

 今回、どうしても悔やまれるのは、北沼付近で最初の1人が動けなくなったあと、一行が1時間半もその場にじっとしていたことだ。結果論になってしまうが、1時間半あれば出発した小屋へ戻るにしても、下山するにしても相当進めただろう。すぐに歩きだしていれば、風雨にさらされたまま体力を消耗することもなかったのではないかと思う。生還者の1人は「休んでしまうと体温が奪われてしまうと思い、歩き続けた。歩いているうちにポカポカとしてきた」(朝日新聞・7月18日)と言っている。

 もし参加者の状態や防寒具、テントなどの装備に不安があり、逡巡していたのであれば、なぜその段階で警察に電話して救助を要請しなかったのだろう。参加者からも「遭難しているんだから、救援を要請しないといけない」と声があがっていたという(「週刊文春」7月30日号)。基本的に、山で携帯電話が通じると思ってはいけないが、午後5時前にビバーク先からメインガイドが携帯メールで救助要請しているなら、あるいは電話がつながったのではないだろうか。

2009年7月17日、トムラウシ山山頂北側で捜索する自衛隊員ら。テント付近には登山者とみられる姿も ©時事通信社

登山ツアーを楽しむために

 今回の遭難事故で登山ツアー自体によい印象を持てなくなった人もいるかもしれない。だが、ツアーで登山に行くメリットは大きい。飛行機や現地での車の手配、宿の予約などを代行してもらえるし、経済的にも利用価値は高い。こうしたメリットを十分に享受しているベテラン登山者も多い。

 そこで、登山ツアーを楽しむための心得を5つにまとめてみた。

 まずは、参加する側の心構えだ。(1)行きたい山と行ける山は違う。

 孫子の兵法ではないけれど、「山を知り、己を知らば、百山すれど危うからず」だ。たとえガイドが同行してくれる登山ツアーでも、自分自身がこの山を無理なく登れるのか、客観的にチェックして欲しい。今回の旭岳~トムラウシ山の縦走なら、所要5、6時間の山――例えば丹沢表尾根を登って大倉尾根を下るコース――を標準のコースタイム+休憩時間くらいでこなせるくらいの力がないと、チャレンジする資格はないと思う。地図は読めないといけないし、10キロくらいの荷物を背負って歩くだけの体力も必要だ。装備品については言わずもがなである。