2012年から「事故物件」に暮らし続けている芸人・松原タニシさん。今年、滞在した訳あり物件のなかでも、とりわけ記憶に残る部屋をふりかえる。住民が孤独死した分譲マンションの一室で嗅ぎとった“独特のにおい”とは――。
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2021年10月、国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が公開された。
それによると、今まで事故物件扱いされていた孤独死が、賃貸借・売買取引において老衰・持病による病死などいわゆる自然死、または自宅の階段からの転落、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など日常生活の中で生じた不慮の事故については原則として告知しなくてよいと定められた。
ただし、長期間の遺体の放置によって特殊清掃、大規模リフォーム等が必要となった場合には告知する義務が発生する。
つまり、亡くなってすぐに発見された孤独死は告知せずともよくて、亡くなってからすぐに発見されずに遺体が腐敗し、特別な処置を施さないと次の入居者が生活できない物件は告知しなければならないということだ。
2022年、僕は新たな事故物件を探していた。
高齢女性が孤独死、死後1ヶ月弱で発見
今まで数々の事故物件を紹介してくれた不動産屋のNさんから新しい物件情報が届いた。
その物件は大阪市内築40年2階建ての長屋で、高齢女性の孤独死だった。
女性は昨年の夏に2階のトイレの前でうつ伏せの状態で亡くなっていた。死後1ヶ月弱で発見され、死因は特定できない状態だった。
玄関の引き戸を開けて中に入ると、左正面に急角度の階段、床はフローリング、右にキッチン、奥に和室がある。和室の砂壁も一切剥がれておらず、畳の色が不自然に黄色と緑に分かれているくらいで、部屋はとても綺麗だった。
2階も特に何の問題もなく、普段から部屋を綺麗にして生活していたのか、リフォームなしで十分に住める環境である。