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 この部屋の空気を吸い込み続けることは、間違いなく健康にはよくないだろう。僕は鞄の中から防毒マスクを取り出した。かつて特殊清掃のアルバイトを体験させてもらった時にもらったものだ。

 そして、おそらくそこで亡くなったのであろう緑の床が剥がされた位置の真横にレジャーシートを敷き、その上に寝転び、目を瞑った。

床の上に横たわる筆者
 

 横になること約30分。もう限界だった。

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 僕は床から起き上がり、全身に部屋のにおいが染み込んだまま部屋を出ていった。部屋を出ても、マンションを出ても、そのにおいは取れなかった。

 僕に関して言えば、人が亡くなっただけの場所には住める。しかし、人が亡くなった後の強烈なにおいが残る物件には住めないと思った。

 においの除去。特殊清掃するにあたり、それがもっとも必要なことだと感じた。

2年間家賃を滞納、住人が白骨化

 2022年夏、大阪で居住支援のNPO法人で活動するSさんに物件を紹介してもらった。

 その物件は2年間家賃を滞納していた住人が白骨化していたというものだった。

 Sさんは10年前に30代男性から居住支援の相談を受け、この部屋を紹介した。それから8年が経ち、物件の大家から家賃が払われていないことの相談を受けた。Sさんは男性を訪ねたが留守だったので、大家に連絡を入れるよう手紙をドアの隙間に挟み、大家には「それでも家賃が払われなければまた教えてください」と伝えた。

 それから2年が経ち、大家から「実はあれから2年間まだ一度も家賃払われてないんだよね」と言われ、Sさんは鍵を借りて直接男性の部屋へ上がり込んだ。部屋の中は大量の請求書と衣類、本、食料品が床を埋め尽くすように散乱していた。「これは夜逃げした可能性が高い」とSさんは思った。