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「兼光さん、まだ、いらっしゃるんで」
隣の控え室では、やはり最後の一人になった兼光が、まだ動けずに残っていた。
「まじか……と。手応えもあったんで」
岩橋はそのとき初めて、相方もどれだけラストイヤーに賭けていたかを知った。
「敗者復活枠」での直球勝負へ
準決勝敗退組には、まだ最後のチャンスが残されていた。それが敗者復活戦だ。決勝ラウンドには、「敗者復活枠」が一つだけ用意されている。
プラス・マイナスは敗者復活戦に出場する16組の中では最年長であり、芸歴ももっとも長かった。彼らを応援する周りの芸人仲間は、何度となく「お前らなら勝てる」と背中を押した。準決勝敗退後、悲嘆に暮れていた二人だったが、そうした言葉に勇気付けられ、少しずつ気力を取り戻していく。岩橋が振り返る。
「スーパーマラドーナの武智さんも、ライバルになるかもしらんのに『お前らには決勝にいちばん来て欲しくないけど、いちばん来て欲しい』って言ってくれて。敗者復活から勝ち上がるイメージも出来上がってきて、本番では俺らが最後の一枠をいただくでって気持ちになってましたね」
直球勝負。このテーマにふさわしいネタは2本あった。一本は準決勝で披露した「消防士」。そして、もう一本は「野球」だった。決勝に進んだ場合、この2本で挑むことは二人の暗黙の了解事項になっていた。最後の戦いになるかもしれない敗者復活戦は、決勝用に温存していたプラス・マイナスの十八番、「野球」で臨むことに決めた。
(文中敬称略、#3へ続く)