12月18日、お笑い界最大のイベント「M-1グランプリ」決勝大会が開催される。今年も、4カ月にわたる熾烈な予選ラウンドを勝ち抜いてきた9組と、当日の敗者復活戦から這い上がる1組が、いちばん面白い漫才師になるために鎬を削る。一体、人生を変えるのはどのコンビなのか？
「笑い神 M-1、その純情と狂気」は、ノンフィクションライターの中村計氏が芸人・スタッフ80人以上の証言から「M-1グランプリ」の深淵と漫才師の狂熱に迫ったドキュメンタリー。「週刊文春」連載時から大きな反響を呼んでいたこの「笑い神」には、単行本に収録されていないもうひとつの物語があった。それが「笑い神」連載のきっかけにもなった記事、「敗者たちのM-1グランプリ プラス・マイナス『奇跡の3分』」（前・後編／2020年1月2・9日号、1月16日号）だ。決勝直前のいま、本作を特別に公開する（全4回の2回目／#3、#4へ続く）。
◆◆◆
プラス・マイナスは若いときから才能の塊だった。
ジャルジャルの福徳は、NSCで初めてプラス・マイナスのネタを観たときの衝撃をこう振り返った。
「初めて見たネタ、鮮明に覚えてますよ。神父が『あなたたち二人はしょっぼーい』って言うんですけど、そのボケに岩橋のツッコミが炸裂して、こんなおもろいやつおるんや、って。もうNSC時代にほぼ完成されてましたから」
相方の後藤も、こう相槌を打った。
「普通の人がナンボ練習しても到達できない、天性のうまさを持ってたよな。余裕もあって。二人とも歌がうまいからな。リズム感がある。それが漫才に生きてるんやと思う」
岩橋と、ボケ役の兼光タカシ（41）は高校時代からの友人同士だ。騒々しいキャラクターの岩橋とは対照的に、兼光は普段はじつに控えめだ。岩橋と一緒に取材したときは、全体の2割程度しかしゃべっていなかった。
高校時代、岩橋は他の仲間と学園祭などでコントの真似事のようなことをやり、兼光は先生のモノマネをしては同級生を爆笑させていた。大学は別々だったが一度だけ、ほとんどぶっつけ本番で、お笑いイベントのオーディションを受けた。だが落選。学生時代、二人がコンビを組んだのはこのときただ一度だった。
大学卒業を控え、兼光は一般学生と同じように就職活動をし、2社から内定をもらった。一方、岩橋は大学を卒業できそうになかったため、兼光に一緒にNSCに入ろうと持ち掛ける。悩んだ末に兼光は「自分のお笑いセンスを試してみたい」と誘いに乗っかった。
