「寄席でウケる漫才こそ正義」
「誰かが今度、観に行きます言ってくれても、『ええけど、自分らの漫才はベタやで』とか言ってしまう自分がいて」
わかりやすいという賞賛は、言い方を変えるとベタとも表現される。じつは人気者のミキも似たような苦い思いを味わっている。昴生が話す。
「プラマイさんの気持ち、わかる。僕らもM-1で勝てるタイプの漫才師じゃない。古い、古いって言われてますから」
ミキは、たとえば車を買ったというじつに他愛もない話を二人の息の合ったやりとりだけで広げていき、観客を笑いの渦に巻き込んでいく。その技術は驚異的だが、ネタの構成があまりにシンプルなため「ネタが古い」「ベタだ」と言われがちなのだ。
だが、やはりミキの漫才にも客を選ばない強みがある。そして、何よりミキにはそれが自分たちのスタイルだという自負があった。昴生が続ける。
「もちろん、M-1で優勝したいですよ。でも、古いと言われたからといって、新しい漫才をしようとは思わない。寄席でウケる漫才こそ正義。いちばんだと思っているので。ベタって、褒め言葉ですよ。真っ直ぐで笑わせるって、いちばんすごいじゃないですか。シュールと呼ばれる変化球は、僕らが真っすぐ勝負してるから通用するわけで」
昴生のいうことはもっともだった。プラス・マイナスにとっても、わかりやすいこと、ベタであることは、最大の武器だ。だが、彼らは、その武器をコンプレックスにしてしまった。岩橋がこぼす。
「お笑いっていう特別な世界に入った以上、どこか型破りでいたいという思いがある。なのに、なんか優等生をやっちゃってる気持ち悪さがあって。わかりやすいって、結局、個性がないってことなんじゃないかって思えて仕方なかった」
だが、最後の最後、M-1によって失ったものをM-1によって気づかされた。
「俺たちは、何も考えんと、わーわーやるしかないんやと。そうしたら笑い飯さんや千鳥さんにも、太刀打ちできるんやないかって。デビューしたときから答えは出てたんでしょうけどね、僕らのスタイルは。人気はないかもしれないけど、お子さんからお年寄りまで、男女の関係なく笑っていただける」
兼光の目にも、ようやく答えらしきものが映っていた。
「結局、ベタと言われても、それしかできない。僕らの持ってるもんを出すしかない。僕らが考え過ぎていただけかもしれませんね」
奇跡の漫才が生まれるまで、あと少しだった。
(文中敬称略、#3へ続く)