「ずっと携帯でエゴサーチしてはるんです。ぜんぜんこっちの話を聞かないんで『一回、携帯を置いてください!』って。そうしたら、トイレに行っちゃって。30分くらい戻ってこない。トイレでエゴサーチしてたんです。でも、やっと『プラマイはめっちゃウケてたって書いてる』って安心したみたいで。それがまさか、あんなことになるとは……」
この年、準決勝に残っていたラストイヤー組は全部で4組いた。いよいよ決勝進出者が発表される段となり、ジャルジャル、スーパーマラドーナ、ギャロップと、その内3組は次々と名前が呼ばれたが、プラス・マイナスの名前は最後まで呼ばれることはなかった。
準決勝の主な審査員は放送作家だ。言ってみれば、玄人中の玄人である。プラス・マイナスが得意とする寄席の客とは対極にある。岩橋がその違いをこう話す。
「作家の中には『ウケ量よりも新しいことにチャレンジしてる姿勢を見せてよ』という方もいる。今回は、わかりやすいネタを思い切りぶん投げようというコンセプトだったので、ウケることはウケましたけど、やっぱりそうか……と」
ウケ量は絶対ではない――。これもM-1の定説。
結果発表から1時間半以上経過しても、立ち上がれない
準決勝の会場には大きな控え室が2つ用意されていた。岩橋と兼光は、それぞれ別の部屋を選んだ。いつの頃からか、コンビ間の空気が澱まないよう適度に距離を保つようになっていた。楽屋に戻った岩橋は、準決勝敗退の事実に打ちひしがれていた。
「僕がおったら決勝メンバーも喜びにくい。はよ帰らなと思ってたんですけど、体に力が入らなくて……。僕、めちゃくちゃ声掛けにくい雰囲気やったと思うんですけど、和牛だけ、『兄さん、お疲れ様でした』って言うてくれましたね」
最後の一人となり「さすがに警備員に怒られるかな」と重い腰を上げたときには、結果発表から1時間半以上経過していた。
マネージャーの宮下森資は岩橋を最寄り駅まで送ると、「じゃあ、僕は戻ります」と踵を返した。
「えっ? なんで?」