1ページ目から読む
5/5ページ目

 M-1決勝直後、準優勝した和牛の水田信二から兼光にラインが届いた。最終決戦まで勝ち上がったジャルジャルの福徳の証言だ。

「プラマイさんが決勝に上がってきてたら、霜降り明星、和牛、プラマイの最終決戦になっていたと思います、って。代わりに僕ら落とされとる。なんでや!」

 ミキの昴生は一カ月ほど経った頃、劇場で岩橋とばったり顔を合わせた。

ADVERTISEMENT

「岩橋さんにハグされて、泣きそうになりました。何て言えばいいのか、わからなかったです。ただ、優勝できずすいません、って。プラマイさんのためにも勝ちたかった」

M-1の陰を一身に背負ったのがプラス・マイナスだった

「野球」の長尺版の全国放送は幻に終わったかに思えた。ところが、約4カ月後、プラス・マイナスにも「決勝」の舞台が巡ってきた。3月30日、今を代表する芸人たちが出演する『ENGEIグランドスラム』に登場したのだ。岩橋が感慨深げに語る。

「M-1でかなえられなかった夢をかなえられて、ちょっとだけ報われました」

 敗者復活戦でのネタが評判となり、M-1以降、少しずつだがテレビの仕事も増えた。収入も「同世代のサラリーマンよりは上かな」(岩橋)と言えるくらいまでにはなった。

 M-1の光と陰。2018年、その陰を一身に背負ったのがプラス・マイナスだった。だが敗戦直後、岩橋はそれと引き換えにかけがえのない「財産」を手にしたと語っていたものだ。

「最後のM-1で、楽しくやろうなってなって、自己ベストをマークすることができた。楽しく、気楽にやった方が、ええもんができる。それを15年かかって初めて知りましたね」

 そのおよそ一年後、「ルミネtheよしもと」の舞台裏――。出番を終えたプラス・マイナスが戻ってくると、岩橋はすかさず兼光にダメ出しをしていた。兼光が苦笑する。

「何百回もやってるネタで、毎回毎回、反省会してるんは僕らくらいですよ。M-1が終わって、岩橋は前より細かくなりましたね」

 岩橋の弁だ。

「一晩で人生を変えるチャンスはもう僕らにはない。寄席での一つ一つの出番を今まで以上に大事にせなあかんのです」

 漫才界のレジェンド、オール阪神・巨人のオール巨人は、二人に最高の称号を与える。

「プラマイは、滑り知らずやから」

 今日も、どこかの劇場でまたプラス・マイナスが大爆笑をかっさらっていく。明日も、そして、明後日も。

(文中敬称略)

笑い神 M-1、その純情と狂気

中村 計

文藝春秋

2022年11月28日 発売