“人形はなぜ殺される?”

 どこか禍々しくも挑戦的な問い――これを読者に叩きつけてはじまるのが、日本の本格ミステリーの名手・高木彬光の傑作『人形はなぜ殺される』である。不吉さとキャッチーさの入り混じるこの一言は、ミステリー史上屈指の名タイトルだと思う。

 テーマはずばり「魔術/奇術(マジック)」。奇術師が経営する喫茶店で幕を開け、ギロチンを使ったマジックに、奇術発表会の楽屋からの人形の首の消失、やがて起こる殺人事件の関係者は奇術愛好家。

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 事件にも当然マジックがからむ。冒頭での人形の消失に次いで、ギロチンで首を切断された女の死体が発見される。その首は楽屋から消えたとされる小道具の首と入れ替えられ、生首は消えていた。

 人形の死が凄惨な殺人を予告する――第二の事件もそのモチーフを引き継いでいた。東京発の夜行列車が山中でマネキン人形を「轢き殺し」、その一時間ほどあと、同じ線路で今度は第一の被害者の妹が後続の列車に轢殺された!

 ギロチン、轢殺、人形、降霊術、次々に死んでゆく美しき姉妹、心を病んだ女が歌う“照る照る坊主”と斬首の唄……陰惨な装飾に満ちた連続殺人に挑むのは天才犯罪学者・神津恭介、怜悧な頭脳と白皙の美男子ぶりを誇る名探偵である。怪奇小説のごとき物語は、しかし、神津によって謎が解かれたとき、意外な犯人による精密きわまりない犯罪だったことが判明するのだ。

 なぜ首を切ったのか。なぜ姉妹が殺されてゆくのか。そしてもちろん、“人形はなぜ殺される”のか?

 奇術のような見事なトリックをノンストップの恐怖の物語に仕立て上げた名作。問答無用。(紺)