真っ先に疑われたのはジョンベネの両親、そして……
まず、事件の概要はこうだ。12月25日の午後10時頃、ラムジー一家は、友人のホワイト氏宅で行われたクリスマスパーティーから帰宅後、ラムジー氏は車中で眠っていたジョンベネをベッドに運び、一家は床につく。
翌26日、一家は、クリスマス休暇を過ごすためにミシガン州にある別荘に行く予定にしていた。朝食を作ろうと朝早く起きたパッツィーは、キッチンに通じる螺旋階段の上にメモが置かれているのに気づく。それは、ラムジー氏に宛てられた3ページにわたる脅迫状で、11万8,000ドルと引き換えに、ジョンベネの身柄を引き渡すという身代金を要求する内容だった。
脅迫状には「警察には通報するな」と書かれていたものの、ジョンベネが誘拐されたと知ったパッツィーは911に通報。脅迫状にはまた「午前8時から10時の間に連絡する」と書かれていたので、駆けつけた警官たちとFBIは盗聴器を設置したものの、誘拐犯からの連絡はなかった。
4階建ての大きな豪邸内の捜索も行われ、午後1時過ぎ、地下室でジョンベネの遺体が発見される。ジョンベネはブランケットに包まれ、口にはガムテープを貼られ、首にはナイロンの紐がくくりつけられた状態だった。検視局は、ジョンベネの死因は絞殺と殴打による頭蓋骨損傷と断定したが、殴打に使われた凶器は今も特定されていない。
真っ先にラムジー家の人々が疑われたが、それには納得できる理由がある。
例えば、身代金の要求額の11万8,000ドル。この額は、その年のラムジー氏のクリスマスボーナスの額と同じだと見なされたからだ。そのため、ボーナスの額を知っているラムジー家の関係者やラムジー氏の会社で働く社員に疑いの目が注がれた。
また、脅迫状の筆跡がパッツィーの筆跡と酷似しており、脅迫状が書かれていた紙や書くのに使われたペンがパッツィーが所持していたものであること、ジョンベネの首に巻きつけられていたナイロンのコードがパッツィーが使っていた絵筆にくくりつけられていたことから、パッツィーも疑われた。
司法解剖されたジョンベネの胃からは未消化のパイナップルが見つかった。事件が発覚した朝、キッチンテーブルの上にはパイナップルが入ったボウルが置かれていたことから、ジョンベネは夜間パイナップルを食べたと考えられた。そのボウルには兄バークの指紋がついていたことから、ジョンベネにパイナップルを食べられて怒ったバークが、懐中電灯でジョンベネを殴って殺したというバーク犯人説も浮上した。
身代金11万8,000ドルに隠された事件を解く“カギ”
しかし、調査を重ねたクラーク氏はこれらの身内犯行説に“ノー”を叩きつけている。
まず、11万8,000ドルという身代金の要求額は、ラムジー氏のクリスマスボーナスの額と同額ではないことを発見する。その額は、正確には、11万8,117.50ドルだった。近い数字だが、全く同額とは言えなかったのだ。
さらに、クラーク氏は11万8,000ドルという金額を別のところから発見した。
「事件直後、ラムジー家の向かいに住んでいたジョー・バーンヒルの家の地下室に住んでいた高齢の男が事件の数年前に政府から借り受けていたローンがちょうど11万8000ドルだったのです。また、事件後、ジョーの息子が借り受けている家屋改善のためのローンも、同じ11万8000ドルでした」
ラムジー氏のボーナスの額のような端数がない、11万8,000ドルちょうど。これは偶然とは言えないとクラーク氏は確信する。
クラーク氏は、地下室に住んでいた男の経歴も調査した。男は事件当時64歳だったインディアナ州出身のグレン・メイヤー。金遣いが荒いため、元妻たちから愛想を尽かされて、4度も離婚を重ねていた。4度目の妻に家から追い出されて無一文になったメイヤーは、政府から、前述の11万8,000ドルのローンを得ていたのだ。しかも、メイヤーはそのローンの返済が滞っていたという。