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「ラブドールを通じて『セックスは楽しいよ』と伝えたい」“リアル”と“遊び心”を追求し続けたラブドール界のガリバー・オリエント工業の45年《日本のジョブズはここにいた》

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殺伐とした時代だからこそユーモアを大切にすべき

 その後も表情や髪型、胸の大きさ、身長など細部までこだわり抜いたドールの開発を進め、今日に至るまでコンスタントに新作を世に送り出してきた。その中でも、土屋社長が重要視する「遊び心」を最大限に具現化したのは、おっぱい型卓上ドリンクサーバー「モンデノーム」だろう。タンクにドリンクを入れて体内に設置し、右胸の乳首周辺を優しくもみしだくと左胸の乳首から液体が飛び出す仕組みで、コロナ禍の20年11月に発売された。

コロナ禍でいかんなく発揮されたのは、常人とは著しく懸隔した発想 Ⓒ文藝春秋/撮影・上田康太郎

「殺伐とした時代だからこそユーモアを大切にすべき。主に飲食店やパーティーでの利用を想定していますが、個人で購入して直接自分の口で吸っても楽しいですよね。牛乳なんか入れたらもうすごいリアルになります」

さらなるイノベーションをもたらした珍事

 リアルと遊び心はオリエント工業を語るうえで欠かせないキーワードだ。だが、顧客満足度の向上を目指し、精巧さを追求し過ぎたがために起きた珍事件もある。

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 完成したドールを葛飾区の工場からショールームに移す際、毛布に包んで社員2人がかりで運んでいたところ、死体と勘違いされ職務質問を受けること多数。08年には静岡県内の山林でビニール袋に詰められた女性の死体があるとの情報が寄せられ、捜査一課が出動する事態となったが、廃棄された同社のラブドールというオチだった。

 後始末に奔走した担当者は「お客さんが粗大ゴミで出すのを恥ずかしがったのか、不法投棄した結果の騒ぎでした。役割を果たした後の処分が難しいようで、泣く泣くノコギリでバラバラにする人もいたと聞きます」と語る。

男装もお手のもの Ⓒ文藝春秋/撮影・上田康太郎

 

 珍事は同社にさらなるイノベーションをもたらした。使用済みのドールを引き取る「里帰り」や、上野の清水観音堂で供養する「人形供養」といったヒューマニティに満ちたサービスを開始する。「『自分の気持ち次第でドールの表情が変わる』と言ってくれるお客様もいる。それだけ深く愛した女性をゴミ袋に入れるなんてしのびないでしょう。こちらも娘を嫁入りさせる気持ちで、お客様にドールを届けていますので」と土屋社長は目を細める。