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「ラブドールを通じて『セックスは楽しいよ』と伝えたい」“リアル”と“遊び心”を追求し続けたラブドール界のガリバー・オリエント工業の45年《日本のジョブズはここにいた》

大学病院の臨床実習、そして絶賛されるレディー・ガガ等身大試聴機も

 オリエント工業は、造形師やディレクター、メイク、ポージングスタッフと、ただの人形づくりにとどまらない多様な専門職を増やしてきた。磨き続けてきた技術はラブドール以外にも転用される。主に大学病院の臨床実習で使用される歯科患者ロボット「昭和花子2」を生み出したのが11年。学生が実践経験を積むために開発されたもので、治療中の患者への胸部接触を配慮するため24歳女性をリアルに再現した。

 現在は販売を中止しているが、介護業界向けのドールで移動、排泄介助練習が可能な「とめさん」も手掛けた。13年11月には、レディー・ガガの等身大試聴機「GAGADOLL」を製作する。約3週間のタイトな日程で仕上げたドールは、胸に顔を当て抱きしめると骨伝導スピーカーで音楽が聴けるという創意に満ちた逸品で、世界のガガ様も大絶賛。同社の名声は世界的になった。

時代にあわせてドールたちの顔の造作も変わる。流行りはやはりアニメ風か Ⓒ文藝春秋/撮影・上田康太郎

 会社設立の節目となる過去の周年企画では、ユーザー参加型のフォトコンテストや、ラブドールと家具を掛け合わせた展示会などを開催してきた。「かつて『後ろめたく変態的なもの』と認識されていたダッチワイフは、ラブドールという名称で定着し、世間に与える印象も変わってきたと感じています」と土屋社長。

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社会が明るくなるような「ちょっとエロいこと」に挑戦したい

 17年の40周年イベントは、来場者の半分以上は女性だったという。「ラブドールのおっぱいを触ったり、膣に指を入れたりするアトラクションを用意したんですけど、これが女性に大人気。遠慮なくガンガン楽しんでいて、男の方が気後れしていたくらい。昔と違って女性も性的好奇心をおおっぴらにできるようになってきたんだなと実感しました」

 セクシャリティやジェンダーに関係なく性を謳歌する時代の到来は土屋社長の長年の願いだった。しかし一方で、近年若者を中心にセックスへの関心が薄れていることに危機感を持つ。

「最近は人と接するのが面倒と感じる人が増えていると聞きます。時の流れと共に人の悩みも変化すると思いますが、いつの時代も性欲は尽きないはず。僕も『キツツキ』と呼ばれるくらいセックスが好きでしたが、ラブドールを通じて『セックスは楽しいよ』と伝えたいですね」

コスプレ、おめかし…雰囲気づくりは購入者の思いのまま Ⓒ文藝春秋/撮影・上田康太郎

 2023年1月からは台東区の常設ショールームで「日本のエロと歴史」という大テーマを掲げた企画展を開催する予定だそうだ。

「初回のテーマは江戸時代。これまでは単にドールを見本として並べていただけでしたが、何かしらコンセプトを持った展示会というのは初めての経験になります。ラブドールにはまだまだ改良の余地があります。これからも常に新しいこと、社会が明るくなるようなちょっとエロいことに挑戦していきたいですね」

 GAFAが生まれない、イノベーションがない――この国の過去数十年の嘆きが嘘だったことは、オリエント工業を見ればわかる。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。

「ラブドールを通じて『セックスは楽しいよ』と伝えたい」“リアル”と“遊び心”を追求し続けたラブドール界のガリバー・オリエント工業の45年《日本のジョブズはここにいた》

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