死体にかけられたままの布団への違和感
「友人宅に泊まっていたという兄のアリバイは確認された。だが、浩二の証言には矛盾がある……」
捜査員が不審を抱く証言の矛盾は幾つかあった。1つは、本人が朝まで熟睡していたと話していること。もしそうならば、両親の死体を発見したとき、通常ならば家にいる兄に声をかけるはずだが、浩二はそれをせず、いきなり高山家に行っている。その行動は、兄が帰っていないことを知っていたのではないかという疑惑に繫がる。
続いて、いかに熟睡していたとしても、両親に対する犯行の物音をまったく聞いていないというのは、不自然ではないかということ。
これらに加え、死体の顔には掛布団がかけられていたが、こうした状況は面識者の犯行であることが多いことも、浩二を疑う根拠となっていた。
さらに、死体にまったく手が触れられていないことにも、捜査員は疑問を抱く。ふつう肉親であれば、こうした非常時に、顔にかかった掛布団をめくって揺り起こしたりするものである。しかしそうした形跡はなかった。
だが、これらの点について捜査員から指摘された浩二は、次のように口にする。
「死体に手をかけなかったのは、推理小説のなかで、事件の現場には一切手を触れてはならないと書いてあったのを、読んだことがあったから……」
さらに浩二は、矛盾を追及する捜査員に問い返す。
「私は両親の死体を見てびっくりしてしまい、詳しいことはまったく思い出せません。私に疑いがかかっているんですか?」
浩二への事情聴取と並行して、犯行現場を捜査していた現場検証班からは以下の報告が上がっていた。
「外部からの侵入と考えた場合、侵入口は玄関しか考えられないが、玄関には家族の履物痕以外は発見されなかった。血痕等は玄関の外側にはまったくない。家屋内の物色は全般的に浅く、引き出しから採取した手袋痕の紋様は、被害者方の洗面所にあったゴム手袋の紋様と一致する」
どう考えても、内部の者の犯行としか思えないのである。
「犯人は浩二、物色は偽装と考えていいだろう」