冤罪とテレビ報道の在り方を問う勇気あるドラマ。そんなふうに単純化して語られがちな『エルピス―希望、あるいは災い―』であるが、ここにきて展開はより複雑の度合いを深めた。
テレビ局の人気アナだった浅川恵那(長澤まさみ)が、新人ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)に、無実の死刑囚を救う検証番組やりましょうと頼まれ、ドラマは始まった。
しかし政治や社会への関心も知識もゼロの岸本はあっさり撤退し、浅川は神奈川県の八頭尾山で起きた連続少女殺害事件の真相を、一人で追うと決意する。
しかし展開はネジれ、二人の関係もギクシャクし、立場はいまや逆転した。
第五話から直近の八話にかけ、ドラマは岸本を中心に動いた。取材のイロハも知らず、法律や裁判にも無知な彼が現場に足を運び、証言を集めていく。
逆に浅川は、局内の力関係を考慮し、事件の再取材から距離を置きだす。
岸本はついに、松本死刑囚有罪の決め手となった目撃者の証言が虚偽というスクープを自力でとり、警察や検察に気を使う報道局を出し抜き、深夜のお色気バラエティ番組で放映する。
眞栄田が演じる岸本の顔つきが劇的に変化する。すごいよ、眞栄田郷敦。こんな役もこなせるんだ。
このスクープで局内の力学は混乱し、報道局は妥協案として、浅川を局の看板ニュース番組のメイン・キャスターに復帰させる。
かつての恋人、報道のエース記者、斎藤正一(鈴木亮平)とも復縁。浅川は岸本の取材報告にも「いま、忙しいから」とスルー。
しかし切れ者の斎藤は、副総理の大門とは昵懇の間柄だ。浅川とヨリを戻したのも、冤罪事件の再審が始まれば、大門の不利になるからだ。口封じと欲望のために、浅川を抱き、体と心をボロボロにしても平然とするエース記者。
斎藤から別れを告げられ号泣し、昏い顔で立ち尽くす長澤も哀れで美しい。岸本は真犯人らしき男に辿り着く。大門の選挙区は八頭尾山の近くだ。最大の後援者、本城建託の長男、彰(永山瑛太)が怪しい。大門は元警察庁長官だ。
伊藤詩織さん事件で名前の上がった中村格も警察庁長官だった。疑惑の人物、TBSのやり手記者は安倍政権とベッタリ。鈴木亮平の役柄とぴたり重なる。
瑛太が演じる謎の男が醸しだすフェロモンも凄い。浅川も一度、駅前近くの怪しい店で声をかけられ、鳥肌が立った。斎藤とも共通する、ヤバい男の性の匂いに彼女は反応したのかも。
最後まで浅川と岸本の信頼は回復できないのか。そして大門の巨悪も見逃される可能性が。松本死刑囚(この名も意味深だ)も刑を執行されたりして。幸福な結末は、『エルピス』には訪れないのかもな。
INFORMATION
『エルピス―希望、あるいは災い―』
フジテレビ系 月 22:00~
https://www.ktv.jp/elpis/