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吉野家役員の「生娘シャブ漬け戦略」発言が問題に…なぜ大炎上が起きる“昭和的価値観”が残されたままだったのか?

『炎上回避マニュアル』より #1

2022/12/31
note

報道ガイドラインにも抵触するレベルの無配慮な発言

 早稲田大学も「教育機関として到底容認できるものではありません」とし、I氏について「講座担当から直ちに降りていただきます」と発表した。

 役員解任を含めた一連の騒動は各メディアでも報道される事態となったが、一部メディアでは説明や見出しにおいて、講師の元の発言である「生娘をシャブ漬け戦略」との文言をそのまま伝えられず、「地方から出てきたばかりの若い女性が薬物中毒になるような企画」などと言い換えており、報道ガイドラインにも抵触するレベルの無配慮な発言であったことがうかがえる。

 I氏はマーケティング業界でも著名な存在であったため、氏の人となりをよく知る関係者からは「彼はサービス精神のある人物だから、ウケを狙おうとしただけ」「たった一言でそんなに批判されるとは息苦しい」「そもそもマーケティング用語として一般的な概念だ」と擁護する意見も見られた。もしかしたら、読者の皆さまの中にも同様に思われた方がいらっしゃるかもしれない。

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重大災害を防止するためには

 しかし、筆者としてこの騒動はそのような取り繕った見方では済まされない、大きな課題が顕在化したものだと認識している。気づかぬうちに古い価値観に囚われてしまっている方は、この機会に考えを改める必要があるのではなかろうか。論点は次の3つである。

 1:会社として「ダイバーシティ&インクルージョンを実現し多様な『ひと』が活躍できる職場づくり」を掲げている組織の取締役が、ダイバーシティにまったく配慮のない発言を教育機関でおこなったこと

 2:中心となって組織を動かしているはずのシニア層の見識や価値観がアップデートされておらず、周囲もそれを指摘できるような環境にないこと

 3:提供商品の熱心なファンも多い企業の取締役が、「家に居場所のない人が何度も来店する」「高い飯を奢って貰えるようになれば、絶対に食べない」など、顧客への敬意も、自社商品への愛着もまったく感じられないような表現を用いたこと

 労働災害における経験則のひとつとして「ハインリッヒの法則」というものがある。

「1件の大きな事故・災害の裏には、29件の軽微な事故・災害、そして300件のヒヤリ・ハット(事故には至らなかったもののヒヤリとした、ハッとした事例)がある」というもので、重大災害の防止のためには、事故や災害の発生が予測されたヒヤリ・ハットの段階で対処していくことが必要、との教えである。

 あくまで「労災事故」にまつわる教訓であるから、これを「問題発言」に当てはめて述べるのは少々牽強付会となることをご容赦頂きたいが、問題となった「生娘をシャブ漬け戦略」発言がなされたとき、聴講者には笑っている人もおり、他の講師や運営スタッフも特段問題視しなかったという。