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吉野家役員の「生娘シャブ漬け戦略」発言が問題に…なぜ大炎上が起きる“昭和的価値観”が残されたままだったのか?

『炎上回避マニュアル』より #1

2022/12/31
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「失言」とは、言ってはいけないことを、うっかり言ってしまうことだ。しかしその「うっかり」の中には、発言者の本音が潜んでいることが多い。その本音の中に差別的な考えや、非常識な意見、倫理観が欠如した姿勢が垣間見られると批判が集まり、何かの拍子で一気に注目を浴び、発言者に対して誹謗中傷が集中する「炎上」状態となってしまう。

 ここでは、これまでに発生した、おもに法人企業における炎上トラブル事案の概要と炎上の要因、そもそも炎上を起こさないための心得や体制などを綴ったブラック企業アナリスト・新田龍氏の著書『炎上回避マニュアル』(徳間書店)より一部を抜粋。2022年に起きた吉野家「生娘をシャブ漬け戦略」事件を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

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吉野家「生娘をシャブ漬け戦略」事件

 吉野家は1899年創業、牛丼を主力商品とし、日本全国に1190店舗、海外では米国、中国、台湾、マレーシア、シンガポール等に974店舗を展開する大手外食チェーンである。

 2003年までは文字どおり牛丼一本で勝負しており、低価格と、他のファストフード店よりも迅速な提供スピードにより幅広く支持されている。ちなみに吉野家で用いられる牛肉は年間1万トン、牛350万頭分にも及び、世界最大級の牛肉ユーザーでもある。

 長らく牛丼業界ではトップの地位にあったが、2008年に「すき家」に店舗数で逆転され、市場シェアにおいても「すき家」と「なか卯」を展開するゼンショーホールディングスに次ぐ2位となっている。店舗数も2009年以降はほぼ横ばいであるが、これは不採算店を整理統合したりリニューアルをおこなったりした結果によるものだ。

 同社は2018年にグローバル大手の消費財メーカー「P&G」出身のマーケッターI氏を常務として招聘。従前は利用者の約8割が男性客であったところ、裾野を広げるべく、I氏主導で若年女性向けのマーケティング施策を推し進めた。

 具体的には「クッキング&コンフォート」と呼ばれる、ゆっくりと過ごしやすい内装へと改装してイメージアップしたり、従来のメニューにはなかった「小盛」やコーヒーを提供したり、テイクアウトの割引キャンペーンを実施したり、パーソナルトレーニング大手の「ライザップ」とタイアップした「ライザップ牛サラダ」を発売してヒットとなったりした。I氏の戦略は、女性利用客と客単価の向上を成し遂げ、同社の好業績に大きく貢献したのだ。