みなさんは「きれいなジャイアン」を知っているだろうか?

 それは国民的漫画作品である『ドラえもん』に登場する、あのジャイアンの別の姿である。

 イソップ童話の「金の斧」が下敷きとなった原作では、ドラえもんが出したひみつ道具「きこりの泉」に物を投げ入れると、入れたものがよりよい物になって返ってくる。その話を聞いたジャイアンが、例によって欲張って古いおもちゃを大量に投げ入れようとするが、その際に誤って泉に落ちてしまう。泉から出てきた女神がのび太たちに「落としたのはこれですか?」と見せてきたのは、眉毛のキリッとしたいつもと違うジャイアン。それを見てのび太たちが困惑する……というのが登場シーンだ。

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 そんな「きれいなジャイアン」がいま、SNSの世界でバズっている。きっかけとなったのは、小学館の児童学習誌『小学一年生』の付録紹介ツイートだ。編集部がきれいなジャイアンをモチーフにした付録の貯金箱の動画をツイートすると、あっという間に10万をこえる「いいね」と1000万を超えるインプレッションを獲得した。

「きれいなジャイアン」の付録を企画した磯辺菜々さん ©文藝春秋/平松市聖

「付録のセオリーとしては、ドラえもんとかピカチュウとか、“主役”を使うのが王道なんです。社内でも『子どもは知らないんじゃない?』とかいろんな指摘があって。ウケるかスベるかは、賭けだなと思っていました」

 付録を企画した編集者の磯辺菜々さん(29)はそう語る。

 なぜ、この令和の時代にニッチなモチーフの付録を企画したのか。その裏側を聞いた。

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リアルタイムではなかった「きれいなジャイアン」の存在

――雑誌の発売前からすごい反響があったと聞きました。

磯辺 さすがに想像以上でしたね。そんなにみんな「きれいなジャイアン」が好きだったんだって思って(笑)。驚きました。

――磯辺さんはまだ20代ですし、この「きれいなジャイアン」の原作やアニメも、リアルタイムではないですよね?

磯辺 そうですね。私はいま入社5年目なんですが、実は入社するまで『ドラえもん』の原作をしっかり読んだことがなかったんです。この「きれいなジャイアン」もネットとかの画像で断片的に見て知っていただけでした。

 ――そんな馴染みのないキャラクターをなぜ付録の企画に……?

磯辺 きっかけは新入社員研修で川崎市の藤子・F・不二雄ミュージアムに行ったことなんです。ミュージアムの中に、原作のひみつ道具「きこりの泉」を模して、ポンプを押すと「きれいなジャイアン」が出てくる泉があるんです。結構人気のフォトスポットになっているんですが、それを見て「めっちゃ楽しいじゃん」と思って。当時は、一緒に行った同期も含めて、キャラクターの詳細は全然知らなかった。それでも「コレ、ジャイアンのお兄さん?」とか言いながらみんなで遊んで、それがすごく楽しかったんです。

SNSでバズった「きれいなジャイアン」貯金箱 ©文藝春秋/平松市聖

 そこでしばらく観察していたんですけど、特に家族連れの皆さんがすごく楽しそうにされているんですよね。小さい子とご両親が一緒に来て、子どもがすごく喜んだり、子どもだけじゃなくて、お父さんも「来るぞ、来るぞ……上がった!」みたいにめっちゃ楽しんでいた。他にもお孫さんを連れたお爺ちゃん、お婆ちゃんもすごく楽しそうで。そんな風景を見て「これは“全年齢対応型いないいないばぁ”だ……! もしかしてすごいコンテンツなのでは?」と新入社員ながらに心に残っていました。それでずっとメモ帳に残していたんです。