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 当時、僕が借りていた賃貸マンションの間取りは7畳のワンルームで、家賃は13万円です。貯金が半年で底を突く計算でしたが、ここを根城にして、奈槻さんやお客様に、いつ何時呼ばれてもすぐに駆けつけるという生活を徹底しました。

 例えば、携帯電話は椅子に座っているときは太ももの下、寝ているときは枕の下と、鳴ったらすぐに気づける場所に置いていました。とにかく電話が鳴ればすぐに出るヤツ、便利なヤツになる。「タバコを買ってこい」「マンションのゴミを捨てておいて」と言われれば、コンビニやマンションに即走ります。でも、観察をしていれば、上司や先輩が吸っている銘柄もわかる。タバコが切れそうだなと思ったら、先輩に言われるより先に「これどうぞ」と差し出すぐらいの気持ちでいました。ゴミ捨て日が近くなったら「お部屋のゴミ片付けに行きましょうか?」と先に聞くこともできます。

 僕は便利なヤツで居続けることで、結果としてNo.1の「スキル」を間近で学ぶことができたのです。これはビジネスマンも同じ。最短で駆け上がりたいならば、社内評価№1の人や憧れる人につけばいいのです。

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 犬になることで奈槻さんの接客の仕方やスキルを間近で見ることはできましたが、接客中は忙しくて声をかけられる雰囲気ではありません。ですので、お客様の管理術や接客術に対する考え方を、その場で聞くことはできませんでした。

 幸いにして、奈槻さんは最後までお店に残っているタイプだったので、何とかして目にかけてもらおうと、帰宅するタイミングを見計らって、片付けや掃除が終わるように調整しました。それをずっと続けていたら、「ご飯でも行くか」「買い物でも付き合え」と、声をかけてもらえる頻度が増えていったのです。

職場でノウハウを学ぶよりもプライベートで盗め!

 接客中よりも、奈槻さんと一緒に過ごすプライベートの時間のほうがはるかに濃密で、仕事のスキルやノウハウをたくさん学べました。業務中はお互いにこなすタスクがある。プライベートこそ、一番の収穫時間とわかりました。

 奈槻さんは教えているつもりはなかったと思いますが、「24時間どんなときもホストであるという姿勢」「努力に対して売り上げが伴っていないときは、自分にダメ出しして追い詰めてもまったく意味がない」「道を開きたければ、成功事例を振り返るのではなく、うまくいかなかったことを徹底的かつ合理的に追求する」など、いろいろな仕事の心得を学ばせてもらいました。ほかにも遊ぶエリアとか、ご飯を食べる場所と食事中の所作など、売れっ子にしか見えない世界観やセンスを垣間見ることができました。

 また、接客はひとりで回すことはできません。接客のサポートをしてくれるヘルプに手伝ってもらいながら、卓を回していかなければなりません。しかも、ヘルプで入ったホストはずっと同じ席に座ることはなく、入れ替えをする時間が決まっています。

 だから、初めてお店に来店してきたお客様のヘルプにつけるように、あらかじめ付け回しを担当するスタッフに根回しをしていました。それで、初回の接客に全力投球し、次の指名に繋げてきたのです。女性だけでなく、仕事仲間に愛されることもまた、億を売り上げるポイントと言えます。

日本一「嫌われない男」の億を売る仕事術

降矢まさき

扶桑社

2022年12月2日 発売