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 すぐに県警本部機動鑑識班員9名による、室内の検証が始められたが、そこには荷物がほとんどなく、部屋の全体にわたって雑巾(ぞうきん)のようなもので拭かれた形跡があり、指紋等が検出されない。それでも鑑識班員が粘り強く採取活動を続けたところ、ガラス窓の一枚から掌紋(しょうもん)が発見され、無事に採取することができたのだった。

 後にこの掌紋が、死体から採取されていたものと一致したことから、被害者は由貴子であると断定。彼女の周辺について、徹底的に捜査するとの方針が立てられたのだった。

 すると関係者への聞き込みで、由貴子はかなり貯金をしていたとの情報が寄せられた。そこで彼女の預金口座を調べたところ、失踪から3日後に、R市内の銀行支店にあるCDコーナーで、36万円が引き出されていることがわかった。

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 そのCDコーナーには防犯カメラが設置されていたため、画像を解析したところ、映像に男の姿が認められた。しかし画像は不鮮明で、髪がやや長めの若い痩せ型の男としかわからない。そのため人物の特定にまでは至らなかった。

 そうしたなか、由貴子の実家への事情聴取によって、ある男の名前が浮上したのである。

美術教師が見せる不自然なリッチさ

 その男、久田茂雄は通勤にはベンツ、レジャーにはジープを使い分けるなど、高校の美術教師という職業には見合わないリッチな生活を送っていた。年齢は38歳。彼にはエステ店を経営する妻と3人の娘がいた。

 久田は由貴子がかつて通っていた高校の教諭であり、在学中の彼女と親密な関係にあった。それだけではない。由貴子は母親に次のような手紙を出していた。

 〈高校を卒業して1年半ぶりに久田先生と会い、ホテルの喫茶店で話し、また会おうと約束して別れた〉

 こうしたことに加え、由貴子の周囲を捜査していた聞き込み班からも報告が上げられた。それは、由貴子が親しい知人に「私の彼氏は38歳で沢田研二に似ている」と語っていたとの情報や、彼女が男の運転するジープから降りたのを見たという目撃証言だった。

 久田が有力な容疑者として浮上したことで、さらに調べを進めたところ、彼が由貴子の失踪と時を同じくして、自身の名義で彼女が居住するビルの上階の部屋を借りていたことがわかった。そしてなぜか、その部屋には長谷川奈美という22歳の元看護師の女が住んでいた。

 奈美は由貴子と同じく久田の元教え子で、由貴子の1年後輩である。さらには、由貴子の死体のそばに残されていたタオルの1本は、奈美が前に住んでいた家の近くにある神社が、近隣住民に配ったタオルだった。