昭和60年代、元教え子たちを言葉巧みに風俗店に誘い込み、搾取の果てに殺害した38歳・美術教師。美術教師という立場を利用し、多くの女性たちを不幸に陥れたその悪質手口とはいったい?

 ノンフィクションライターの小野一光氏の新刊『昭和の凶悪殺人事件』(幻冬舎アウトロー文庫)より一部抜粋してお届けする(全2回の1回目/後編を読む)

*登場する人物名はすべて仮名です。 

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元教え子たちをソープに沈めた美術教師の手口とは? 写真はイメージです ©getty

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腐乱後に焼かれた女性の死体

 昭和60年代の秋のことだ。

 東海地方某県R市の中古車展示場で発生した不審火の鎮火場所で、焼死体が発見された。消防からの通報を受けて現場に急行したR署の刑事課長以下、現場捜査員はすぐにその死体に不審な点があることに気付いた。

「課長、これはヤバイ」

 同署の山口係長が思わず声を上げた。焼け焦げてはいるが、遺体の首元にはタオルが巻かれており、一目見て殺人であることが明らかだったのである。

 死体の見分が行われると、被害者は女性で、腹部が膨らみ、顔面が軟化するなど、腐敗が進行していることがわかった。さらに腹部の火傷裂創(れっそう)には生活反応が見られず、死後に火をつけられたことは明らかだった。そのうえ、手首は強く緊縛され、頸部にはタオルと細紐が巻かれているなどの状況から、犯人はどこかで被害者を殺害後、この場所に運び、油性物をかけて火をつけたと判断された。

 そこで本件を殺人・死体遺棄損壊事件と断定したうえで、R署に総勢120名もの捜査本部が設置されることになった。

 死体のそばには、鍵が1つ、スニーカー1足、タオル40本、ビニールシート2枚が燃え残っていた。

 これらの遺留品が、被害者の身元割り出しの重要な決め手となると考えた捜査本部は、流通経路の確認を急いだ。その結果、鍵について、昭和46年から50年までの間にM県の工場で製造されたものと判明。さらに工場の台帳から、遺留された鍵と同一のものが設置されている建物が、15カ所にまで絞り込まれた。

 やがて隣接するN県のマンションを訪れた捜査員が、遺留品の鍵番号と一致する部屋を発見。聞き込みの結果、そこに住むのは22歳の元風俗店員・高宮由貴子であることが判明した。さらに調べを続けたところ、由貴子は死体発見の6日前から所在不明だという。