「アイヌたちの真似はとてもできない」
ある時、私はこのことを、岩内からきたという猟人にザンゲ話に話したことがあった。すると、その猟人も同じような話をしてくれたのだ。
「僕もそれと同じ様なおっかない目にあったことがある。やはり3人で、羆射ちの目的で雷電山にのりこんだまではよかったが、向側の峰に、大岩のように大きい羆が坐っているのに出あって、とても銃を向ける気持はしなかった。3人とも電気にでもうたれたようになり、一目散に逃げてしまった。羆のケタハズレに大きいやつは、いくら猟人でもいやだからノウ……。大きい羆は度胸がいいというのか、小さいやつのように、人を見たからといって一目散に逃げ出さないのだ。28番や30番の村田銃ぐらいでは、心もとなくてとても射つ気にはならないよ」
超弩級のものに出あうと、やっぱり同じように生命が惜しくなり、からきし意気地のないものだと、ひそかに話しあったものだった。岩内の猟人はなお言葉を継いだ。
「今日のアイヌは、もう度胸がなくなってしまったが、昔のアイヌは、この大ものを喜んで追跡したものだった。小さいやつは、はしっこくて、なかなか近寄れないが、大ものは度胸があるせいか、人間をあまり怖れないらしい。そこがアイヌたちのツケ目で、接近して射ちまくるのだ。わりあいに小羆より大羆の方が捕り易いものだ……と述懐していたものだ。しかし、まあ、われわれの羆狩りは職業ではなく、1つのスポーツとして、遊び半分の道楽でやっているものだから、アイヌたちの真似はとてもできない。生命がけの仕事はそうやりたくないからね。アイヌのいうように、大羆は度胸が図太いから、逃げださないで射ちやすいことは間違いないのだが、万一にも射ち損ったら、一跳びに襲われてしまうのは請けあい、まず、おだぶつだ。クワバラ、クワバラ……」
2022年「クマ部門」BEST5 結果一覧
1位:「巨大ヒグマがダダッと駆け降りて『グワァ』と…」4回ヒグマと遭遇した“ハンター御用達”職人が最も危険を感じた瞬間
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3位:「両足の肉がほとんど食い尽くされていた」留守番中の11歳少女を襲った「1904年のヒグマ襲撃事件」の惨劇
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4位:「腹破らんでくれ!」胎児を含む7人が殺害…国内最多の死者数を出した「三毛別ヒグマ事件」の壮絶
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5位:「と……と、とにかく、逃げられるだけ逃げよう」大熊に追われたハンター3人…銃も使えない絶体絶命の逃走劇
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