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激昂したミッツ氏に「K-POPは産業なんです」

 2年前の2020年11月3日、フジテレビの情報番組『バイキングMORE』は「K-POPアイドルを目指す日本人」という企画を組んだ。筆者も取材に応じ、そのコメントがスタジオで紹介された。その内容は、「日本の良い人材が海外に流出して、日本発のアーティストが育たなくなる可能性がある」といったものだった。

 このコメントに対し、「誰よ!」と激昂した口調でコメントしたのは、スタジオ出演していたミッツ・マングローブ氏だった。中森明菜など80年代アイドルを好むミッツ氏にとって、私の現状認識はけっして首肯できるものではなかったのだろう。

 だが、このとき解説役としてスタジオ出演していた言語学者のキム・キョンジュ氏は、穏やかな口調でミッツ氏をこう諭した。

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「K-POPは産業なんです」

 それはミッツ氏が古き良き日本芸能界のイメージに固執していることを瞬時に察したうえでの、的確な切り返しだった。続けて、キム・キョンジュ氏は、2000年代に起きたサムスン電子などによる日本メーカーからの技術者の引き抜きの例をあげた。いまの日韓芸能界では、それと同様の人材獲得競争が生じているということだ。

 実際、技術者の引き抜きの結果、2000年代後半以降に日本の家電メーカーは衰退していった。いまの日本の芸能界で起きているのは、そうしたケースと似ている。

 地上波テレビを中心にして露出を維持し、確実に廃れゆくCDをあの手この手で売り続け、女性アイドルには古めかしいジェンダー観満載のパフォーマンスをさせ、国内マーケットだけをターゲットにする──80年代後半に完成し、90年代後半にピークを迎えたこの古い産業構造を日本の各種企業はいまも必死に維持しようとしている。

 しかし、インターネットメディアによってそうした構造は総崩れとなりつつある。いまや音楽メディアの中心は、「地上波テレビ-CD」ではなく「YouTube-ストリーミング」だ。率先してそれに乗ったK-POPは、新しいメディア環境にいち早く順応した全世界の若者にリーチした。そんな韓国に日本から有望な人材が渡るのは、当然といえば当然だ。

 日本にも才能豊かな人材はいるが、その能力を発揮させることができるのは韓国ということだ。IVEとLE SSERAFIMの世界的な人気は、それを象徴している。

 だからこそ、今年の『紅白歌合戦』は大きなきっかけにもなるはずだ。両グループの優れたパフォーマンスを通して日本の衰退をしっかりと噛みしめ、芸能界を中心とする産業構造の転換が急務であることを確認できるからだ。